第23回 いたばし協働・市民フォーラム:外伝【side story】
【第23回 いたばし協働・市民フォーラム】
『「ひきこもり」「孤独・孤立」と自治体の対応
~ “生きづらい” 社会をなおすには ~ 』
■ 経緯と背景と ① ~テーマ設定:その1~
21世紀がスタートし、早いもので四半世紀近くが経とうとしています。
この間、社会は目まぐるしく変わってきた、そんなように思います。
「変化」には2種類ある、と(巷間)云われます。
一つは「一変」。すなわち、一瞬,一時(いっとき)でがらりと変わること。東日本大震災に象徴される災害、また法改正や政権交代などもそんな変化かと思います。
もう一つは「徐々の変化」。すなわち昨日と今日を比べてみても、ほぼ変わりはないのの、今日と1年前、10年前を比べると、かなりの違いが出ていること。少子化や高齢化、人口減少などは、まさしくそんな変化かと思います。
当会が起ちあがった21世紀初頭は、自治体においても「刷新」や「変革」が叫ばれ、「住民参加」「協働」「行財政改革」が横串を差すテーマでした。当時の石塚輝雄板橋区長は、どんなところでも「これからの行政経営の要諦は『参加』『評価』『公開』」とスピーチしていました。実際、区長の一声でつくられた(変わった)制度や条例は少なからずあり、これは地域において前者の事象かと思います。
そして、今回取り上げる「ひきこもり」「孤独・孤立」は、変化としては後者であり、いまを生きる私たちにとって極めて関係性が強く、同時に根も深い事象であるように思います。
また、コロナ禍3年目であった2年前、ほぼ重なるテーマで行いましたが、同事業を終えた際、コロナ収束後に「もう一度、もう少し掘り下げてみたい」そんな感を覚えていたこともあります。
20数年前の「参加」「協働」「改革」を、現代に直せば「日常性の維持と“参加”」「人間どうしの“協働”」「社会的寛容への回復と“改革”」であり、区民が集い、区民に立脚する当会は、「徐々」の回復を信じて活動と事業を行いたい、そう考えております。
今年度の事業も、皆さまどうぞよろしくお願いいたします!
https://www.itabashi-forum.com/.../%E7%AC%AC23%E5%9B%9E.../
■経緯と背景と ② ~テーマ設定:その2~
今回の事業は「ひきこもり」「孤独・孤立」、そして広い意味での「生きづらさ」を掘り下げ、同要因を探りながらこれを共有し、地域、社会、自治体において何ができるか、一人ひとりは何をすべきか、を考えみるということを眼目にしております。
「生きづらさ」は主観的なものさしですが、社会的出現の指標のひとつとしては「自殺者数」が考えられるように思います。
1993年のバブル崩壊後は、毎年3万人を超える自殺者が出ていました。同数字は、子どもからお年寄りまでの全国民のうち4000人に一人が自死しているということです。
2023年の自殺者数は 2万1818人。往時からは少なくなったとはいえ、高止まりしているというのも事実です。
そして「生きづらさ」の対角にあるのは「生きやすさ」ですが、長じて「幸せ」「幸福感」「幸福度」というワードや尺度があります。2013年、当会では『住民幸福度』を取り上げ、12回目となる「いたばし協働・市民フォーラム」を実施いたしました。
東日本大震災から2年半、みな具体的な「幸せ」を欲していたように思います。同時に当時は、目に見えない「生きづらさ」というものよりもまだ少し余裕があった、今になってみればそんな感じも覚えます。
同回から11年が経ち、取り組むテーマは「幸福(度)」から「生きづらさ」に変わりましたが、何度か記しましたとおり、「やる気 世直し 手弁当」のボランティア(人称代名詞)が集って発足した当会の源流には「ともに生きる」と「人々の幸せをつくる」という社会福祉の理念があります。
「幸福」も「生きづらさ(の解消)」も正解があるわけでなく、100人いれば100人の感覚・感性がありますが、これまで行ってきたとおり、今回も政治行政の関係者や専門家の方々を交えながら、ともに考え,論じ,対話できれば、そう思います(続)
■経緯と背景と ③ ~第1部 講師:荻上チキさん~
今回、第一部の講師としてお話をいただくのは評論家の荻上チキさんです。
講演のタイトルは『社会問題としての「孤独」~スマホがあればそれでいいのか~』。
荻上さん自身、その著書『みらいめがね』(2019年刊・現在も『暮らしの手帖』連載中)の中で、小中学生の頃のいじめ体験を綴っております。そして「それでも死なずに義務教育を終えられたのは、この世界にゲームがあったからだ」と学校よりもゲームの世界が、自分にとってのメインの世界であったと公言されています。
一方、毎晩3時間「TBSラジオ」から聴こえてくる“発信型ニュース・プロジェクト”「荻上チキ Session」では、ゲームの世界を超え、メディア論、政治経済、社会問題、文化現象、国際問題 等々、幅広いテーマを扱い発信しています。テーマごとにその道の専門家から現状や問題点を聞き出しつつ、理路整然と一般のリスナーにわかりやすく伝えていくそのパーソナリティとしての実力は多くの方が認めるているところです。
ご自身は「番組は“学びの場”」といわれていますが、今回のテーマに関しても、4月に「ひきこもり問題を考える」を取り上げ、KHJ全国ひきこもり家族会連合会の池上正樹前副理事長とお話しされておりました。学校や会社での人間関係など、もともと社会の中にあるさまざまな見えないストレスが「ひきこもり」のきっかけになっていると見聞します。
昨年1月、内閣府には「一人ひとりを包摂する社会」特命チームが、10月にはイギリスに続き世界で2例目の担当(孤独・孤立対策担当)大臣が設置されました。
「ひきこもり」や「孤独・孤立」を特別視することのない社会は、「包摂」「寛容」「多様性尊重」の延長線にあるように思います。そして間違いなく言えること、それは「生きづらい」よりは「生きやすい」社会を誰もが望んでいる、ということです。
今回、第一部の講演で荻上さんの【めがね】(視点と分析力)から、社会問題化してしまった孤独・孤立の現状、またご自身も体験されたひきこもりや生きづらさに関し、どんなお話が聞けるのか。楽しみでもあり、是非、多くの方に足を運んでいただければ嬉しく思います。
■経緯と背景と ④ ~第2部シンポジスト:大坪冬彦市長(日野市)~
本事業では、毎年テーマに沿った先進自治体の首長さんをシンポジストとしてお招きしております。23回目となる今回お越しいただくのは東京都日野市の大坪冬彦市長です。
何と日野市は、「ひきこもり」について2012年から取組みをはじめ、実態調査についても2020年に実施。同相談事業を行うほか、ひきこもり女性当事者会、また「個」と「個」をつなぐ居場所づくり事業や子育て家庭の孤立を防ぐファミリー・アテンダント事業など、同分野で他自治体の一歩先を行く取組みを展開しています。
https://www.city.hino.lg.jp/kurashi/sumai/1012318/index.html
大坪市長は同市職員出身。職員時代は福祉畑を歩み社会福祉士資格を有するなど弱者への眼差しと寄り添う意志を持った首長です。
また、日野市には「セーフティネットコールセンター」がありますが、同市を訪問して驚いたことがあります。それは、その名称から電話が並んで電話対応しているいわゆるコールセンターを想像したのですが、同センターは福祉分野のワンストップ窓口を兼ねたひとつの課(組織)ということです。そして同名称は「住民に浸透し馴染んでしまっているので、○○課への変更は必要としていない」ということでした。
電話でもよし、(窓口に)訪れてもよし。全て何でも相談受けます。そんな役所の心構えが垣間見える名称と組織であり、文字通りセーフティネットの砦であるという感じを受けました。
そして、今年に入ってからも5月27日に子ども包括支援センター「みらいく」、6月3日にみんなの居場所とくらしの相談窓口「みらいと高幡」をオープンさせるなど、日野市の実践に学ぶ部分は多いと感じており、大坪市長のお話、是非この板橋にて多くの皆様にお聴きいただければ嬉しく存じます。
https://www.city.hino.lg.jp/.../shiy.../desakli/1026332.html
https://www.city.hino.lg.jp/fukushi/fukushi/1003811.html
【閑話】
少し話がそれますが、自治体における図書館の充実度は、自治体の文化度ひいては良い自治体のバロメーターという側面がありますが、日野市で有名なのは今に続く「移動図書館ひまわり号」です。図書館のなかった昭和40年、「何でも、いつでも、どこでも、誰でも」を合言葉にマイクロバスを改造して「ひまわり号」をスタートさせ、移動図書館から分館、中央図書館へという歩みと前川恒雄館長の実践は知る人ぞ知る物語です。
https://www.lib.city.hino.lg.jp/library/ayumi.html
また同市出身の歴史上の人物に新選組副長の土方歳三がおりますが、若き日、近藤勇とともに日野宿にあった佐藤道場で剣の稽古に励んでいたことは有名です。その近藤勇は板橋(刑場)で最期を遂げ、JR板橋駅東口駅前には土方歳三との供養碑がある、というのも日野市と板橋の(因)縁を感じた次第です。
■経緯と背景と ⑤ ~第2部シンポジスト:丸山博史さん(板橋区福祉部長)~
第2部のシンポジウムには地元・板橋区の部課長に登壇いただいており、今回は福祉部の丸山部長となります。横串を刺すテーマ設定を趣旨とする本事業では、登壇は政策経営部や総務部といった官房系の部課長が多い傾向にあり、福祉部からは第9回以来、久々の2人目となります。
今回のテーマの一つでもある「ひきこもり」は同部の所管であり、2022年に専任の係を同部の生活支援課に新設。同年「ひきこもりに関する実態調査」も行っており、同結果では板橋区でのひきこもり群の出現率は0.79%、推計約2,967人というものでした。
https://www.city.itabashi.tokyo.jp/.../fukushi/1040357.html
また、先ほど(10/31)文部科学省が発表した2023年度の全国の小中学校の不登校児童生徒数は346,482人。初の30万台超えで過去最多。前年度から15.9%増で、40人学級においては1.5人が不登校というもので、「ひきこもり」や「8050問題」につながる課題でもあります。
そして「孤独・孤立」対策は、板橋区ではまだ緒についてはいないものの、本年4月から施行された「孤独・孤立対策推進法」(第15条)を受け、来年度以降、自治体でも何らかの取組みが行われることが想定されます。
https://www.cas.go.jp/.../suisinhou/pdf/suisinhou_sikou.pdf
同対策もおそらく福祉部で司ることになるかと思いますが、板橋区は20数年前までは「福祉の板橋」と言われており、予算に占める福祉費の割合が50%を超えている稀少な自治体でした(今は少子化や高齢化の中で56.5%)。同予算比は生活保護費や当時の石塚区長が民生畑出身というだけでなく、障がいをもつ当事者や親兄弟のさまざまな働きかけや運動によって実現・成立していた面があり、福祉関係者にとって同数値は誇りでもありました。
丸山部長は直近「子ども家庭総合支援センター 支援課長」そして「子ども政策課長」時代、2度ほど当会で行っているミニ勉強会に講師としてお越しいただいたことがあります。
控えめですが、新卒入庁27年でのライン部長はおそらく今では最も早い部類の昇任であり、「福祉の板橋」を担い、さらにこれからが嘱望される、そんな方だと感じております。
■経緯と背景と ⑥ ~第2部シンポジスト:寺田ひろし議員(板橋区議会健康福祉委員長)~
第2部シンポジウムは、毎回、住民代表である議会の方にもお声かけしており、党派に関係なく区議会で当事業のテーマを所管している(ピタリとはまる委員会がなければ近しい)委員会の委員長をお招きしております。今回は健康福祉委員長の寺田ひろし議員です。
同委員長(ポスト)の登壇はちょうど10年前の第13回時の『人口減少社会にどう立ち向かうか ~20年後を見据えた 市民・自治体の対応~』に続いて2度目となります。
寺田議員は初当選時に当会のミニ勉強会に講師としてお招きしたことがあります。民間企業の出身らしく、また(いい意味で)議員然としたところのない、物腰柔らかで謙虚、応対もとても丁寧な議員さんです。
https://www.komei.or.jp/.../terada-hiroshi.../profile/...
区議会では、11月6日の同委員会でちょうど「ひきこもり」の件と、「孤独・孤立」がクローズアップされる端緒となった2010年のNHK特集「無縁社会」の象徴的な事象である「行旅死亡人」の件が報告されております。
https://www.city.itabashi.tokyo.jp/.../kenko.../1055177.html
同資料によれば昨年度からスタートしている「ひきこもり相談」の件数は、今年度は月平均167件。昨年に比べて約1.4倍。世代的には20代の相談が最も多く、相談内容としては「生きづらさ」「孤独や孤立」の割合が高い傾向にあります。
また、行旅死亡人の数も令和3年度56件、4年度69件、5年度81件、今年度は半期で既に52件と数字的に年々増加しているのことが判ります。
「ひきこもり」や「孤独・孤立」と云う極めて今日的かつ一人称な事象(困難)に対し、議会はどんな捉え方をし、どんな論議がなされているのか。そして住民の支持と理解、人心を集めることにより成り立つ職業でもある議員(一人ひとり)は、同課題に対して何ができるのか。シンポジウムではそんなところも論議してみたい、そう思います。
■経緯と背景と ⑦ ~第2部シンポジスト:大塚 類さん(東京大学准教授)~
第2部のシンポジウムには、これもお決まりということで学識経験者の方にお越しいただいております。
今回は東京大学の大塚類先生です。
「生きづらさ」「孤独・孤立」等に係る(学術)研究は、「高齢化」「医療」「保健福祉」「貧困」「心理学」「社会学」「人間関係論」「ネット(オンライン)化」といった、幅広い分野からアプローチがなされているのですが、大塚先生は「教育」「子ども・若者」分野から、臨床的に「生きづらさ」を研究・解明・支援している先生です。
大塚先生本人も学生を交えながら「子ども食堂」に携わり、また福島県双葉町や(出身地である)大分にも同テーマに関連して足を運び、講演・活動するなど、机上だけでなく実践も伴っており、臨床的視点から行政の取組み等への率直な意見も披瀝いただけるかと思います。
https://www.u-tokyo.ac.jp/excelle.../member/r2_r_otsuka.html
https://www.p.u-tokyo.ac.jp/archives/3569
*******************************************************************************
ということで、本事業の開催も今週土曜日(11/16)となりました。
23回目となる本事業を打てるのは、当ページにてご紹介させていただいた講師・シンポジストのお陰であると同時に、これまでご協力・ご参加いただいた皆さまのご支援があってでもあります。
そして、今回はじめて目にしていただいた皆さまにも、是非ご来場をいただければ嬉しく存じます。
※本文章を持ちまして、今年の事前告知を兼ねた掲載を終えたいと思います。
あとは当日、会場にてお会い出来ればと存じます。
どうぞよろしくお願いいたします!
■第23回 いたばし協働・市民フォーラム【御礼】
お陰様で11/16(土)の標記事業につき無事に終了することができました。
ご来場の皆さま、誠にありがとうございました!
23回目となる今回のテーマは事象もかなり幅広く、また個々人の主観も入り混じる部分もあるため、なかなか難しい設定でしたが、実施当日は色々と気付きもありました。
第1部 荻上チキさんの講演では、ご自身やご子息の実体験や実例を交えながら、チキさんでしか語れないような(私小説風で)印象深いお話・内容でした。
◉駅に貼られた楽物乱用防止ポスターのコピー「ダメ、ゼッタイ」に絡み、その表現は(それこそ)「絶対、ダメ」。
◉不登校への選択肢は、「復帰(登校)させる」「(受け皿としての)フリースクール等に行く」だけでなく、第3の道として「(不登校児が登校できるよう)学校自体が変わる・変えてゆく」という方策もある、等々。
第2部シンポジウムでは、困難を抱えた当事者に寄り添い、少しでも気持ちが分かる、そんな共助や公助の大切さをあらためて認識させられました。何より、お互いはいつ当事者になるかもしれない、そんな自分事として、私たち一人ひとりが他者や社会とつながる・つながりを感じることができる。そんなことを少しでも意識しながら日々の暮らしを営むことができればいいな、そう感じた次第です。
力及ばずながらも当会はこらからも一歩ずつ漸進してゆければ、そう思っております。
本ページをご覧の皆さまには、これからもご愛顧・ご協力等いただければ嬉しく存じます。
引き続き何卒よろしくお願い申し上げます。
#ひきこもり #孤独・孤立 #板橋 #生きづらさ #荻上チキ #協働 #フォーラム