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衛星インターネットの最新動向 Part 1 (衛星メガコンステレーションについて)

 最近、ZOZO創業者の前澤氏が国際宇宙ステーション(ISS)に滞在したり、ホリエモンがロケット打上げに成功したりと、日本でも宇宙ビジネスについての関心が高まっています。

 また、海外でもイーロン・マスク氏が多数の人工衛星を打ち上げて、高速インターネットサービスを提供しようとしているとか、これに対抗してAmazonも多数の人工衛星を打ち上げる計画を進めているなどのニュースが流れてきています。

 今回は、こうした人工衛星を利用した高速インターネットサービスの動向について解説したいと思います。

1.メガコンステレーションとは

 一般の人にも馴染みのある衛星放送や国際衛星電話などで主に使われているのは、赤道上空の高度約36,000kmの軌道を周回する静止衛星です。 

 人工衛星が一定の軌道から外れずに周回するのは、人工衛星が地球の周りを高速で回ることによってかかる遠心力と地球の引力が釣り合っているからです。
 そして、人工衛星が地球の周りを回る速度と地球の自転速度(秒速約3km)を一致させて、地上からは止まっているように見えるのが静止衛星です。
 したがって、人工衛星の回転速度を決めると遠心力が決まり、遠心力が決まると、地球の引力と釣り合う高度が決まるので、静止衛星の高度は、約36,000kmと決まっています。

出典:TD衛星通信ブログ

 これに対して、地球表面から高度2,000~36,000 kmの軌道を中軌道、高度500km~2,000kmの軌道を低軌道(LEO: Low Earth Orbit)と言います。 

 低軌道衛星は、中軌道や静止軌道に比べて地上からの距離が近いため、打上げ費用が少なくて済むというメリットがあります。
 また、地上からの距離が近いために通信の遅延が少なく、送信出力も小さくて済むので、電力消費が少なく、人工衛星の小型化が可能です。
 さらに、近い距離から地表を撮影することができるため、リモートセンシング衛星にも活用されています。

 低軌道衛星は、静止衛星と違って、地球の上空を高速で周回しており、すぐに電波の届かない地球の裏側に回ってしまうため、通信衛星として利用するためには、複数の人工衛星を次々と切り替えて運用する「衛星コンステレーション」という仕組みが利用されています。
 そして、衛星コンステレーションのうち、構成する人工衛星の数が数百から数千という極めて多数に及ぶものを「メガコンステレーション」と呼びます。

出典:TD衛星通信ブログ

2.メガコンステレーション誕生の背景

 最近は、新興のIT企業や航空宇宙分野の巨大企業が、手頃な価格で世界中に高速インターネットサービスを提供するために、低軌道衛星を利用したメガコンステレーションに投資するようになってきました。

  このようにメガコンステレーションが注目されてきた背景として、以下の3つの要因が挙げられます。

① 人工衛星打上げコストの低下
 近年、SpaceXなどの衛星打上げベンチャーの参入により、人工衛星の打上げコストが大幅に低下しています。
 また、人工衛星の軽量化も、打上げコストの削減に貢献しています。 

② 人工衛星量産技術の進歩
 人工衛星の設計がモジュール化されて、標準化された衛星バス(人工衛星の基本機能や動作に必要な機器)や小型で高性能なコンポーネントを使用できるようになり、他の製造業と同じように、組立ラインや在庫管理システムを備えた製造工場が建設されるなど、人工衛星量産技術が進歩しています。
 このように、メガコンステレーションを構成するのに必要な数百から数千の人工衛星を短期間に低コストで製造できる環境が整備されてきました。 

③ インターネットサービス利用の需要増
 現在でも、途上国や僻地では、通信環境が整わないためにインターネットサービスを利用できない人が大勢います。
 近年、先進国では当たり前になってきた便利なインターネットサービスをいつでもどこでも利用したいというニーズが拡大し、コストのかかる基地局設備の整備が不要な衛星ブロードバンドサービスへの期待が高まっています。

SpaceXのFalcon 9ロケット打上げ

3.メガコンステレーションの課題

 メガコンステレーションがターゲットとする市場は、世界中の高速インターネットアクセスが十分に整備されていない地域の住民など約30億人と言われており、既存のネットワークを補完するものとして期待されています。 

 しかし、この構想には、以下のような様々な課題が存在しており、過去にも多くの企業が挑戦と失敗を繰り返してきました。

① 莫大なコスト
 メガコンステレーションの実現のためには、多くの人工衛星を製造して打ち上げる必要があるため、サービス開始までに莫大な投資が必要となります。
 また、小型衛星の寿命が短いために、人工衛星の交換も頻繁に行う必要があり、ランニングコストも非常に大きいという課題があります。

② 周波数帯の調整
 電波干渉を避けるために、地域ごとに地上間通信や静止衛星で使用されている周波数帯との調整が必要となり、多くの地域で一度にサービスを提供するのは大変です。

③ スペースデブリの問題
 運用終了後の人工衛星が軌道上を漂う大量の宇宙ごみ(スペースデブリ)となる可能性があり、適切に軌道外に放出しないと、他の人工衛星等と衝突する危険性があります。

④ オペレーションの難しさ
 低軌道衛星は地球を周回しているため、特定の地域に対して通信を提供する人工衛星が短時間で次々と切り替わります。
 そのため、切り替わりのタイミングで通信が不安定にならないよう、人工衛星の動きを把握したシステム管理やモニタリングが必要となります。

⑤ 天文観測への影響
 非常に多くの人工衛星を低軌道上に打ち上げることになるため、天文観測において、多数の人工衛星が写りこみ、観測を妨害することになるのではないかと懸念されています。

スターリンク衛星の軌跡

【参考書籍】


 次回は、主なメガコンステレーション提供事業者の動向について解説します。


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