見出し画像

2020みちのく旅行記1

初めて東北を訪れたのは、十年以上前のこと。

福島の秘湯と言われる温泉を目当てに車で向かった。新潟を抜けてようやく福島に辿り着き、ああ、やっぱり遠いなあとしみじみ思った。
夜中に出て、昼前に着き、会津若松城を見て温泉へ。玉子湯という有名な温泉宿では名古屋から車で来たのか、それは遠いなと驚かれた。噂に違わず素晴らしいお湯で、ご飯も滋味深くて感動した。


福島には小さな思い出があった。
中学か高校の頃だったと思う。その時住んでいた家の近くに建設会社の寮が建ち、そこに住み始めたサブちゃんというおじさんと父母が仲良くなった。
毎晩飲み歩いていた父母には行きつけの居酒屋が幾つもあり、色んな人と知り合って来た。サブちゃんもその一人で、土方焼けした肌が黒くて、いつもにこにこしていて、お酒が大好きだった。夕食を居酒屋で食べるというのがざらだったので、その内、私もサブちゃんと顔見知りになった。

ある日、そのサブちゃんが家までやって来た。田舎のお袋が送って来たから。そう言ってくれたのは笹で巻いた手作りのちまきで、きなこにまぶした餅米がとても美味しかった。
母の手料理でまともなものは、鰻とカレーに栗おこわくらいで、高校生になって初めて、餃子やいなり寿司が家で作れると知った私である。こんなものを家で作ったりするのかと感心した。
美味しかったと伝えると、サブちゃんは喜んで次の年も持って来てくれた。ちまきの他に桃も持って来てくれた。平たい桃で、こうやって食べるのだと、ナイフを使って器用に割ってくれた。
それが数年続いて、サブちゃんは現場を移るといって、何処かへ行ってしまった。

そのサブちゃんが、福島の人だった。


福島だけでなく、東北をゆっくり回りたいなと思っている内に大震災が起こり、なんとなく足が遠のいた。そうこうしてる内に家庭の事情もあり、この数年は何日か連泊するような旅行は出来ていなかった。

しかし、それも今春に節目を迎え、よし、今年はあちこちへ旅行するぞと決心していた。

…ところへの、コロナである。

悲嘆に暮れた方も多いのではないか。私など暢気なものだが、これが新婚旅行とかなら気の毒でならない。時期をずらすったって、その時仲悪くなってたらどうすんのよとか、あると思うのだ。


まずは三月に那覇へ飛び、ソーキ蕎麦を食べて首里城へ募金にいって、泡盛飲んで。
五月辺りに台湾へ行って、食べて買い物して、地方の温泉なんかにも行ったりして。
夏は念願の黒部へ行ってたくさん歩こう。あ、長崎も行きたいね。島巡りしたいね。


そんな旅三昧計画は露と消えたのだが…ひとつ、課題が残っていた。クマのリフレッシュ休暇をどうするか問題である。

うちのクマの勤め先には勤続年数によってリフレッシュ休暇なるものがあり、働き方改革だのなんだのうるさいこのご時世、取得が義務と化してしまっている。
勤続二十五年(!)の時はとても付き合ってられないと一人旅に出した。今回のは勤続三十年(!!)。年内に消化しなくてはいけないという。


旅行に出られる状況ならちょうどよかったねと言えただろうが、コロナである。おちおち旅行もしてられない状況であるのに、休暇は取らなくてはいけないという。
となると、十日近く、クマが家にいるのだ。何もせず。ごろごろといるというのだ。
GW、お盆、正月以外にそんなの許せるか?いや、許せん。
無理だ。


もう何とかしてごーとぅーするしかねえんじゃねえか?


そんなわけでみちのくへっぽこ旅に出たわけである。

(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?