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国連は侵略を防ぐことができないのか?

日本はかつて侵略を行ったという過去を持つ。
戦後連合国による裁判も行われ、侵略や戦争犯罪は法的に定義され対処されるという枠組みを求めて国際連合が設立され、その法的役割も徐々に変更されてきた。
国連は侵略に対し無力であるという主張はよくみられる。これにたいして僕は素人だから、無力かどうかはまったくわからないし、もっとよい方法があるかもわからない。
ただ、どう対応するにしても、国連の規定上現在なにができるかできないか、ということは興味がある。かなり複雑であるようだ。
たまたまこの問題に興味を持つようなことがあったので、ざっと調べてみたが、割と知っていたことも知らなかったこともあったので、まとめておこうと思う。
この資料は、単に国連の仕組みや合意上何ができてなにができないか、という文面上のルールを調べただけである。だから、それによってどのような方法が有効であるか否か、ということはまったくいえない。言えるのは、各国が合意したルールに基づいて何ができるのか、ということだけだ。

第二次大戦以前、戦中

カイロ宣言
日本の戦争についてしらべるとカイロ宣言というものにあたる。
カイロ宣言 1943年12月1日 | 日本国憲法の誕生 (ndl.go.jp)
gaikou06.pdf (cao.go.jp)
「三大同盟国は日本国の侵略を制止し且之を罰する為今次の戦争を為しつ
つあるものなり 右同盟国は自国の為に何等の利得をも欲求するものに非

又領土拡張の何等の念をも有するものに非ず
右同盟国の目的は日本国より1914年の第一次世界戦争の開始以後に
於て日本国が奪取し又は占領したる太平洋に於ける一切の島嶼を剥奪する
こと並に満洲、台湾及澎湖島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の
地域を中華民国に返還することに在り日本国は又暴力及貪欲に依り日本国
の略取したる他の一切の地域より駆逐せらるべし。」
この宣言は3カ国が日本にたいしておこなったものなので、多国間の協定にはなっていない。(なのでたとえばソ連を拘束するものではない、という解釈はありえる)。
しかし、力による現状変更、言い方を変えれば戦争の勝敗による国境変更は認めない、ということが現在の国連のルールであるが、それにつながる宣言であったように思う。
戦争がおこったとき、その勝敗にかかわらず、その結果を領土の変更に結び付けることは許されない。こうした外交文書が戦中からあった、ということは僕は知った時に少し驚いた。
国連成立後、戦争の結果としての国境の変更は禁止されている。実際、力による国境変更の例は、わりと少ないと思う。

第二次大戦後

「侵略の定義」の採択

侵略の防止には、侵略をどう定義するかという問題がある。
自ら侵略を行うと自認する国は少なく、多くの場合は、国土防衛、対象地域の治安維持、テロ防止、という理由がつけられる。そこで、A国がB国のX地域を武力制圧する場合に、A国はX地域を自国領であるから安全保障活動だと主張し、B国は侵略と主張する。
これを認定する仕組みがあるか、というのが認定問題だ。
侵略を認定するにはまず定義が必要である。
調べてみると、「侵略の定義」は第29回国連総会で採択された。
下記資料によると、1950年の第5回総会におけるソ連の主張が契機となり,なかなか合意にいたらなかったが、74年,特別委員会案が特別委参加国のコンセンサスで作成され,この案がそのまま第29回国連総会で採択された。
ソ連が主張した、というところは面白い。

第7節 法律問題 (mofa.go.jp)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1975_1/s50-2-4-7.htm

侵略の定義に関する決議は下記
University of Minnesota Japanese Page (umn.edu)
http://hrlibrary.umn.edu/japanese/JGAres3314.html

認定手順

定義があっても、どう認定するかについての合意がなければけっきょく押し問答になってしまう。これについて国連憲章は、
「侵略や戦争行為の認定と強制は安全保障理事会が担当」
することとしている。
このことが、侵略に対する対応を難しくしている、という主張はよくみる。
侵略行為だという多数の認識があっても、安全保障理事会の常任理事国のうち1カ国でも拒否権を使えば、侵略の認定ができない。
しかし、侵略の認定に対し拒否権があるから国連が認定できない、というのはもちろん間違いだ。
朝鮮戦争を契機とし、1950年に「平和のための結集」が決議された。

平和と安全の維持について、安保理が対応できなかった場合、国連総会において緊急特別会合を開催して審議、決議することができるようになった。
この説明の法文の原文は以下でも見ることができる。

平和のための結集決議 - Wikipedia

Uniting for Peace General Assembly resolution 377 (V)

「安全保障理事会が国際的な平和と安全の維持に対する主要な責任を果たすことの重要性と、常任理事国が全会一致を求め、拒否権の行使を自制する義務を再確認し、(中略)

安全保障理事会が全加盟国を代表してその責任を果たせなかったとしても、加盟国はその義務を免れず、国際連合は国際の平和と安全を維持するという憲章上の責任を免れないことを意識し、

特に、そのような失敗が、国際的な平和と安全の維持に関する憲章の下での総会の権利を奪い、その責任を免除するものではないことを認識し、

安全保障理事会が、常任理事国の全会一致を欠いたために、平和への脅威、平和の破壊、または侵略行為があると思われるいかなる場合においても、国際的な平和と安全の維持のための主要な責任を行使しなかった場合、総会は、国際的な平和と安全を維持または回復するために、平和の破壊または侵略行為の場合には必要に応じて武力の行使を含む集団的措置について加盟国に適切な勧告を行うことを目的として、直ちにその問題を検討することを決議する。」
ちょっと意外だったが、認定どころか、武力行使もこの枠組みで認められている。なので、侵略があっても国連が何もできない、というのは間違いで、加盟国の多数が侵略と認め、武力行使をすることを求めるならば、拒否権があっても侵略と認め対応することも可能である。
もちろん侵略と認定して侵略国に侵略行為の停止を求めることと、武力により介入することは、かなりハードルの差があるから、認定ができれば武力介入もできるわけではない。

標準的手順

したがって現在の国際法のもとで侵略行為がおこなわれた場合に国際社会がとりえる手段としては、以下のようになると思う。

  1.  事実確認
    実際に侵略の定義にあてはまるか、それが確定するまでは十分な情報を集める。こうした事態への介入はデリケートな問題であり、まちがいなく侵略行為であるという、確たる証拠が必要になる。が、侵略の定義についてはきちんとした定義があるから、侵略であるかどうかは定義に従って判断すればよく、侵略すべき理由があったかどうか、という点は国連憲章にそのような権利は最初から認められていないから、特に考慮する必要はない。問題は侵略の定義にあてはまるか否かという点だけであると思う。

  2. 残念ながらこの段階では他国の武力介入は難しい。この段階では、侵略を受けた国や国民は、なんとか自力で防衛をするしかない。残念ながらこの段階で甚大な被害が発生することはやむを得ない。

  3. 有志による援助
    国連による認定ができる前であっても、防衛的な手段の援助であれば関係の深い国は国連憲章に違反することなく、提供することができる。侵略を受けた国の国土内での戦闘行為であれば、これは国内の問題なので、その国の要請をうければ武器などの援助は多分可能だ。国際法上も許されている。しかし、間接的な武力介入とも考えられるから、抑制的に行うことが望ましい。後で侵略の認定ができることが確実である場合にだけ認められるべきだろう。

  4. 安全保障理事会による認定
    安全保障理事会の一致があれば、侵略の定義にしたがって認定する

  5. 緊急総会による認定
    安全保障理事会が一致しなくても、侵略が非常に明らかかつ深刻であれば、万一安全保障理事会が一致をみなくても、緊急総会によって侵略の認定が可能。

  6. 撤退の要求。
    認定ができたら、非難決議をして、侵略をした国の自発的な退却を求める。

  7.  防衛的な戦力の供与
    国連決議が出たなら、これは侵略を受けていることになるから、国連の精神から考えてすくなくとも防衛的な兵器の供与については、加盟国はむしろ積極的に提供する義務を負うと考えられる。逆に侵略を行っている国は、少なくとも国連決議が出たことにより、兵站については国連加盟国全体を相手に戦うことになり、掲載制裁なども受けるから、この時点で侵略を完了するという野心を捨てることが期待される。

  8.  経済制裁
    認定ができればこれも強化可能である

  9.  武力行使
    これは最終手段であって、できればここに至らずに侵略を終わらせることができるようすべての手段を尽くすことになるだろう。

残された問題

侵略については、このようにみてみると、侵略に対する武力による強制まで、現在の国際法で実は可能であるように見える。
もちろん法的に可能であるということと、各国がそれに賛同し、協力的であるか、という点は別問題だ。
国連の規定は、慎まなければならない、とか、原則にしたがって行動する、など、具体的な義務を課しているものはほぼない。経済制裁なども、行うことは適法だが、行うことを強制するものではない。
抜け駆けや、非協力という問題が生じる。

また、もうすこし視野を広げると、ここまでの話は、侵略行為や、平和に対する脅威については有効だが、人道問題では有効ではない。
緊急総会を開けるのは平和に対する脅威についてだけであって、人道問題では開けない。したがってある国が、自国の国民をどんどん死においやっていても、それについては内政問題であるから、国連の介入は期待できない。
他国の侵略については国連の介入が期待できるが、自国政府が自国民に攻撃的になることからは、国民みずから安全を確保するしかない。


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