ジョー・力一になりたかった

「この人になりたい」
そんな思いを抱くことは多くの人にあると思う。

私はその感情を男性に抱くことが多かった。
私は高校生まで山田涼介さんのヲタクだった。リアコから信者になっていった私は、山田さんの浴びる黄色い声、ペンライトの海、私のものとは全く違う輝く汗がほしかった。

私は女性である。AKBのまゆゆも好きだったし、今でも推している現役の女性アイドルがいるけど、彼女たちになりたいとは思わなかった。

少し前、日常で出会ったイケメンにも「私もイケメンになりた〜い!」と無邪気に言った。「いや性別」とかなり当たり前の言葉をイケメンから返された。


そう、私は女性の身体、女性の心を持ち女性らしい魅力を磨いていきたいと思っているのに、女性のロールモデルは定まったことがなく、男性に対して「こうなりたい」と思う絶妙な歪みを持った人間なのだ。



そして私がここ数年一番なりたかったのは、ジョー・力一。

正体不明のピエロ。 ティーンエイジの終わりに突如天啓を受けて以来、フリーランスの道化師として活動中。 トリッキーな容姿や言動とは裏腹に寂しがり屋で、常に人とのふれあいを求めている。 が、ピエロゆえに孤独である。(にじさんじ公式HPの紹介文より引用)

https://www.nijisanji.jp/talents/l/joe-rikiichi

ティーンエイジの終わり、大学に入学した私はなぜか当たり前のように演劇研究会に入り、それから同期がどんどん演劇から離れていっても「役者」という言葉に居座っている。

お友達を作るのが昔から下手で、集客力と精神の安定性に難がある。


私はこの人の存在を知って割とすぐ、「カズー歌枠」なる配信のアーカイブを観て、出演ライブでカズーを吹いた。


なんでこんなにハマった???私はいまだにカズーのことを主催に擦られる。



そして貧乏エピソードや「何者でもなかった」頃を語るのを聞くたびに、今の私と同じように夢を見て、なかなか芽が出ない日々を送っていた人として自己投影していった。繊細で心遣いに溢れる言葉に、大変失礼ながら自分と似た悲しみも感じていた。

この人のようにいつかチャンスが来て、そこから飛躍できるかもしれない。

私もこの人のようにたくさんの人を笑顔にしたい。

ジョー・力一になりたい。



男と女。ピエロと役者。バーチャルとリアル(無粋なことはまあ別として)

そんな隔たりを超えて、私はジョー・力一になりたいと思った。


もちろん、なれないこともわかった上で。
私は私なりに彼並みの感動を人に与えたかった。


6月14日のライブ『カーニバル・リヴ』が当たった後、6月16日に自分の出演ライブが決定した。

私の体力のなさを知っている主催には怒られそうだけど、良いものを浴びたら良いものを出せるという言い訳を作って、炎天下の品川の坂道を登った。列に並んだ。その場で会ったヲタクと6人で昼食を食べた。痛バ一つに全部を詰め込んで絶対肩痛くなるけどええわ!と両手にペンライトを持って群衆に突っ込んだ。押し合いへし合いではなくなんとなく距離を保ち、直前放送に拍手しながら開演を待った。

ライブ本編
↓無料パートだけは絶対観ろ↓

いつもの白いスーツを着たピエロがゆっくりと下からせり上がってくる。動画で解説してくれたコールをみんなで叫ぶ。アブラカタブラ!

暗転して精巧な映像が流れ出す。小さなクッキー缶から、181cmの真新しい衣装を着た男性が飛び出す。新衣装くらい予想していたのに。あまりに輝いていた。

ステッキや棒付きマイクを使ったダンス。
いやらしく腰をグラインドさせたと思ったらじたばたと動く振り付け。あの手この手で私たちを楽しませる。

ハードでアップテンポなラップ、一緒にカズーを吹く時間、しっとりとしたバラードにただ魅了される。

ファンがゼエゼエ言いながらも絶対に着いていきたいと思わされる演出。繰り返されるコール。
遅れてきた、最新の、レイテストショーマンへの喝采。

驚いた。彼だけがバーチャルなのに、同じ次元にいるかのように熱いパフォーマンスをする。それに感化され数千のリアルが大きく動く。

表情だって、同じ次元にいた。バーチャル存在で一番リアルの人間に近い表情を見せていたと思う。



私は感服して、完敗した。

あんなことをバーチャルでやられるなんて。
リアルの演者の中でも未熟な私は、本来自己投影できるほど彼に近づけていない。


じゃあ、私は何だったらバーチャルの彼に勝てるのだろう。


そんなことを考え、喉を必死に治したが、答えはまだ出ていない。
小さなライブハウスで人生を思い起こしながら、私は観客と直接目を合わせ、話し、名刺を配り、物販を売った。それしかまだできていない。


ジョー・力一になりたかったな。


VTuberじゃなくて、ピエロじゃなくて、シンガーじゃなくて、男性じゃなくて、

ジョー・力一になりたかったな。



なれる訳ねえだろあんな最高な人に!!!!!!!!!!!!!!!!!!


私はこれからも彼にたくさんの感嘆符を投げながら、なりたいという感情を捨てきれずに、役者も名乗っていくのだろう。



彼の表現を待ち続けて、いつかバーチャルの彼と戦えるように。

【募金箱】病人ですが演劇も被写体もこれからやっていきたいです。サポートしてくれたらもっと色々できちゃうかもしれないので、興味があれば是非。