【書評】AI vs. 教科書が読めない子どもたち(新井紀子・2018)
読む価値のある本です。でも鵜呑みにするのはまずい本だと感じました。
ちゃんとした学者さんが書いた本で、ベストセラー本にしては難しいです。簡単な本ばかり読んでいる人にはハードルが高いかもしれません。ただ、知識・教養を高めるために読書をするならば、せめてこのくらいの本は読めたほうがいいと思います。
著者は「東ロボくん」の名で知られる人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」のプロジェクトディレクタを務める数学者の新井紀子さん。
第1章第2章では、東ロボくんの挑戦を中心に人工知能の特性や限界について解説し、第3章第4章では、東ロボくんのノウハウを活用して日本の中高生に実施した「読解力テスト」の概要と結果、そしてそれが暗示する未来について論じています。
前半部分は実に納得感があり勉強になります。
AIといってもコンピュータ、つまり計算機であることに変わりはない。計算機である以上、やっていることは足し算と掛け算だけ。そして、論理、確率、統計という今の人類が手にしている数学の言葉以上のことは出来ない。AIの発展は「数学」の限界に阻まれ、いわゆる「シンギュラリティ(技術的特異点)」は我々や我々の子ども世代では到底起こり得ないと。
AIに関する本はいくつか読みましたが、AIについてなんとなく理解するために、これほどまで雑すぎず難しすぎず書いているものはなかなかありません。AI本が世に溢れてることを思うと、第1章第2章だけでもう読む価値アリです。
第3章で紹介された「基礎的読解力テスト(RST)」の結果も、これは示唆に富むものだと思いました。RSTの結果と大学受験との関連、生活習慣等との相関についても、特に受験業界や学校の先生にとっては大変参考になるものでしょう。
ただ、RSTの結果の解釈、そしてそれを基にしたAI社会到来がもたらす意味の考察については、かなり問題が多い本だと感じました。
これから読む方へ先入観を植え付けすぎたくもないので簡単に書きますが、
・「RSTの成績がとても悪い」=「教科書を読めない」と解釈してよいのか
・RSTあるいは大学受験でAIと同等以下の成績の人を「AIには出来ない知的労働が出来ない人」と判断出来るのか
あたりにはこの本の評価を左右する深刻な問題があるように感じますし、他にも細かくツッコミを入れたくなるようなところがたくさんありました。
ともあれ、批判的に読むのも学びがあると思いますし、教育業界の方、興味がある方でには是非読んでほしい本でした。特に「AIよくわかんないんだよな」という方には絶対読んでほしいですね。
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