10.ショッピングモール


夢の中でしか行けないショッピングモールがある。

全体的に暗い店内照明と
開放的な窓を覆い尽くすように植えられた観葉植物が
印象的な場所。


現実では行ったことも見たことも無い
正直あるのかもわからないこのショッピングモールは
何度も夢の中の一部として
その度にきちんと私に思い出を提供してくれるのだった。


見ず知らずの男に「俺たちやっぱり合わないね」と振られたり
いつか片想いしてた男と一緒にいたり
大規模な鬼ごっことか
モアイ像が立ったりとか
現実でも有り得そうな事から、
The夢みたいな内容のものまでジャンルは問わなかった。


ある夢の中で、私はそのショッピングモールのエスカレータを登っていた。
自分を俯瞰で見る事が出来るのは夢だからこそで、
それだけでこの状況が夢だと自分自身が理解出来る。

程よく長いエスカレーターを登る私の表情は
希望と不安が入り交じったような奇妙な顔だった。

登りきるとずっと片想いをしている女の姿があった。
先程の表情の謎が解け、
その瞬間に私の視点は私本人の視点になる。

最近SNSで見た彼女は髪を明るい色に染めていたが、
夢の中では黒い髪の毛をしていた。

「久しぶりだね。」「うん、そうだね。」
これ以上の会話は暫くない。

夢だから途切れ途切れでしか覚えていないが
その後私たちは何かを食べて何かを話していたんだと思う。

帰ろうか、となった時に
「ちょっと待って」と彼女が写真を撮り始めた。
壁に写る私と彼女の影の写真。

帰宅してSNSを見ていると彼女はその写真を「またね」という文章を添えて投稿していた。
その写真も、彼女も、この夢の全てが愛おしくて仕方がなかった。


この夢はきっと、
「今年はご飯に誘うぞ」「でも迷惑かな」みたいな葛藤をリアルタイムで行っていた故の内容だったと思う。
こんな夢を見たら、実際にもそんな風になるのかななんて期待をしてしまうじゃないか。

正直、誘える気も誘った後にOKが出る可能性も限りなくゼロには近いとは思う。
でもそうやって思ってる時点で無理だよなってこと。


何話していいか分からないもんな。


そんな、ちょっと前に下書きに残したまま
気付けば2月になってた。

相変わらず彼女のことは誘えないまま

「早くあなたを超える人に出会いたい」
なんて思いながら今日も生きてる。


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