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舞台俳優、映像の俳優、声優はどれが一番芝居が上手いのか

 美容師の友人に「舞台俳優と映像の俳優とは声優はどれが一番うまいのか」と聞かれどう説明しようか迷っていると「俺は声優が一番うまいと思うんだよね」と勝手に話を終わらせられてしまった。

 彼がハサミを持っていなければ掴みかかっているところだ。

 否、彼がハサミを持っていなければ反論したところだ。

 上記のエピソードでは美容師としての彼のコミュニケーション能力に疑問を抱かざるを得ないが、芝居をかじっていたせいかごく稀にどれが一番演技力があるのかと聞かれることがままある。ハッキリ言ってしまえば「比べられない」というのが事実だ。

 では、なぜ比べられないのか。400mハードルの選手と短距離走の選手と長距離走の選手を速さで比べられないのと同じだ。

 ペーパーノイズ(台本のページがこすれる音)を気にしたりマイク前を行ったり来たりしなければいけない声優を400mハードルの選手

 舞台に出ている限り芝居を続けなければいけない舞台俳優を長距離走の選手

 数十秒単位のカットで芝居が終わる映像の俳優を短距離走の選手

 にそれぞれに当てはめたとして、どの種目の選手が一番足が速いかを決めることはできるだろうか。どれかの土俵に立てば他2種目の選手が不利になる。種目が違うがゆえに必要とされる能力、筋力が違うため平等に測ることができない。そもそも長距離走と短距離走では速さというものの考え方や意味合いが違うだろう。

 役者も同じである。声優が一番上手というのはアニメオタクの戯言に過ぎない。

 声優の演技をアニメや吹き替え以外で目にすればそれはすぐにわかる。前にガンガムの主役を演じた超有名人気声優の舞台での演技を見た。今も活躍していて実力も折り紙付きだ。当時でさえ声優としての地位を確立していたので当時は実力が無かったという言い分は通用しない。

 さて、では生で見た彼の舞台での芝居は…とても素晴らしかった。映像の俳優が主役を務め、脇を舞台俳優が堅め、声優の彼はゲスト出演といった形の舞台ではあったがセリフから迸る情感、エネルギー量、伝達力は圧倒的で、最も胸に響くセリフを放っていた。

 そう、セリフは。

 私は彼の体を覚えていない。彼の身体表現は合ってないようなものだった。声が圧倒的だからこそ身体性の無さが際立ってしまう。皮肉だった。だが、それは仕方がない。声優がアフレコの際に体を動かせば物音がマイクに入ってNGになってしまう。だから身体表現を封じ込めて声のみで芝居をしているのだが、身振り手振りを押し殺すことと同じだ。それを彼は十何年とやっている。そのため身体の豊かさが失われていた。

 首から上にエネルギーが集まり、手足が細く見える。まるでマダツボミというポケモンのようだった。

 あと、これは面白い発見だったのだが声優のその人の芝居は点グラフで、他の俳優の演技は折れ線グラフのようだった。急なのだ。

 自分なりに考察したのだが声優は基本的に内面で気持ちが昂り始めている段階の表現は絵で行われ、台詞として気持ちが外に発射されたときの、その爆発の際に声を入れる。大きなエネルギーを作る瞬発力と爆発力がともめられる。

 映像や舞台はカメラや観客にずっと監視されているためいきなり爆発したのでは情緒不安定の人物になってしまう。身振り手振りでも内面で感情をエスカレートさせるのでもなんでもいいが、ボルテージが上がっていくことを表現することを求められる。そのためには自分で爆発的なエネルギーを作るのではなく周囲と影響しあって内面のエネルギーを徐々に上げていく必要がある。

 そのため、声優の芝居が点グラフ、他の俳優の演技が折れ線グラフのようだと感じたのだろう。

 質も違う。やっていることも違う。求められているものが媒体によって違うので比べられない。友人の問いは無意味だ。 

余談だが友人は既に美容師を辞めている。

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