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ネオン街のコンプライアンス

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【売上の一部はどうぶつ基金へ寄付します】 ネオン街を主戦場とする行政書士が奮闘するお話しです。
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記事一覧

ネオン街のコンプライアンス【総集編①】

第1話:行政書士というお仕事 皆さんは行政書士をご存じだろうか。 行政書士は、弁護士と同じ法律系の国家資格ではあるが、認知度は弁護士に比べると遥に低い。 行政書士を簡単に言うと、行政(役所や国、地方自治体など)手続きの書類を、作成・提出する専門家だ。 例えば、建設業の仕事をするなら建設業許可を取得する手続きが必要だし、不動産業の仕事をするなら宅建業の免許を取得する手続きが必要となる。 建設業の許可や宅建業の免許の他にも現存する行政手続きは、1万種類以上あると言われて

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ネオン街のコンプライアンス【総集編②】

第5話:少女との契約 行政書士は、国や役所に提出する書類を代理して作成や提出をするのが主な仕事だが、その他に民事を扱うことがある。 民事とは、離婚や相続、債務問題といった民法に関する業務だ。 だが、僕が民事を扱うことは、基本的にない。 僕が民事を扱わない理由は二つある。 一つ目の理由は、民事はお金にならないからだ。

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ネオン街のコンプライアンス【第1話:行政書士というお仕事 第2話:急いては事を仕損じる】

第1話:行政書士というお仕事 皆さんは行政書士をご存じだろうか。 行政書士は、弁護士と同じ法律系の国家資格ではあるが、認知度は弁護士に比べると遥に低い。 行政書士を簡単に言うと、行政(役所や国、地方自治体など)手続きの書類を、作成・提出する専門家だ。 例えば、建設業の仕事をするなら建設業許可を取得する手続きが必要だし、不動産業の仕事をするなら宅建業の免許を取得する手続きが必要となる。 建設業の許可や宅建業の免許の他にも現存する行政手続きは、1万種類以上あると言われて

ネオン街のコンプライアンス【第3話:銀座の夜の男と女①】

クリスマスが終わった途端、街は一気に正月モードに入る。 年神様を迎える準備をしていると、昨日までキリストの誕生を祝っていたのが嘘みたいだ。 事務所の仕事納めは今週末だが、僕の中では、もう仕事は収まっている。 そんな訳で、朝から僕は中村と一緒に、いらなくなった書類をシュレッダーにかけたり、普段は拭かないような場所を雑巾がけしたりしていた。 面積80㎡の小さな事務所ではあるが、書類や本がいっぱいあるので、何日かにわけて掃除しておかないと、仕事納めまでに間に合わないのだ。

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ネオン街のコンプライアンス【第4話:銀座の夜の男と女②】

昼間は買い物客で賑う銀座の街も、夜になるとその姿をガラリと変える。 男たちは少しでも自分を大きく見せようと見栄を張り、女たちは男からお金を搾り取るためにきらびやかに着飾る。 そんなネオンが氾濫し煌々と輝く銀座の街は、妖艶な空気が満ちている。 白石由美子の店「クラブ エマーブル」は、銀座6丁目の交差点から交詢社通りに入って、少し歩いた所にある。 エマーブルは財界人や上場企業の役員などが利用するような高級クラブではなく、中小企業の経営者が常連にしているような比較的リーズナ

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ネオン街のコンプライアンス【第5話:4銀座の夜の男と女③】

営業前のエマーブルに入って、「こんばんは。行政書士の北村です」と声をかける。 すると、店の奥から着物を着た穂乃果が、店内の奥から小走りでやってきた。 穂乃果は白石とよく似ている美形だが、一周り歳の離れている妹だからなのか、白石のような色っぽさよりは可愛らしさの方が際立つ。 「すいません突然に。困ったことがあったら先生に連絡すればいいって姉から言われてたんで、つい…」 穂乃果が小さく締まった唇を手で覆い、声を潜める。

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ネオン街のコンプライアンス【第6話:家族 前編】

僕が暴力団になったのは、19歳の秋だった。 きっかけは、後に僕の兄貴分となる生野に誘われたからだ。 生野と初めて会ったのは、僕がアルバイトしていた、上野にある個人経営の居酒屋だった。 生野はその店の常連で、仲間らしき人と来ることもあったが、ほとんどは一人で来ていた。 生野の第一印象は、寡黙な人だ。

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ネオン街のコンプライアンス【第7話:家族 後編】

僕がKT行政書士事務所の掛け時計に目をやると、指針は18時を指している。 「そろそろ終わろうか」 パソコン作業をしている小田と中村に声をかけた。 2人が返事をして、帰り支度にとりかかったとき、僕の携帯電話が鳴る。 「もしもし。…はい。はい。わかりました。これから行きます」 僕は電話を切った。

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ネオン街のコンプライアンス【第8話:少女との契約】

行政書士は、国や役所に提出する書類を代理して作成や提出をするのが主な仕事だが、その他に民事を扱うことがある。 民事とは、離婚や相続、債務問題といった民法に関する業務だ。 だが、僕が民事を扱うことは、基本的にない。 僕が民事を扱わない理由は二つある。

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ネオン街のコンプライアンス【第9話:あのときの雨音①】

小学生の頃は、雨の日が大好きだった。 当時の僕は、サッカー部に所属していたが、そこのチームは、弱いくせに練習がきつかったから、練習に行くことが嫌で仕方なかった。 サッカーの練習は、雨になるとできない。 だから、雨の日は、チームメイトと、体育館でバスケットボールをするのが恒例だった。 バスケットボールは、サッカーの練習と違って、怒られることがなかったので、めちゃくちゃ楽しかった。 体育館の屋根をはじく雨音が心地よかったのを、今でも覚えている。 雨にはそんな楽しい思い

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ネオン街のコンプライアンス【第10話:あのときの雨音②】

本所警察署に着いた僕は、生活安全課のカウンターに置かれてある呼び鈴を押した。 しばらく待っていると、奥から、若い男性刑事が面倒くさそうに現れた。 「なんっすか?」 「10時に風俗営業許可の申請を予約している行政書士の北村です。ご担当の黒岩さんはいらっしゃいますか?」 若い刑事は、僕の問いかけには何も答えず、セイター分けの髪をボリボリかきながら、奥へと消えていった。

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ネオン街のコンプライアンス【第11話:あのときの雨音③】

大沢に詰められてから、幾日が経ったのか。 1ヶ月も2ヶ月も経ったような気もするし、昨日だったようにも感じる。 大沢との一件から1週間が経っても、事務所に顔が出せず、ずっと自宅で仕事をしている。 自分の過去の過ちのせいで、今後本所警察署での手続きに支障が出るかと思うと、小田と中村に申し訳ない。 僕は、最低限やらないといけない仕事だけを済ませて、リビングのソファに横たわり、テレビに映る午後の情報番組を眺めていた。

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ネオン街のコンプライアンス【第12話:アンダー 前編】

行政書士会が主催している納涼会が終わった。 この納涼会は毎年7月の第1週の金曜日に行われる、行政書士会の恒例行事だ。 僕はあまり、行政書士会の行事には参加しないが、この納涼会は、美味しいウナギが食べられるので、毎年参加するようにしている。 お店を出て、腕時計を見ると、まだ19時半だ。 全然飲み足りなかったので、タクシーを拾って鮨久に向かおうとしていたら、「北村さん」と、僕を呼ぶ声が聞こえた。 振り返ると、増田が手を振りながら、満面の笑みでこっちに向かってくる。 増

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ネオン街のコンプライアンス【第13話:アンダー 後編】

「…ゆ…い…ちゃん?」 結衣らしき女性は、ビクッとして立ち止まったが、すぐに待機部屋へと入っていった。 僕はどうしても気になったので、野崎に了承を得て、待機部屋に入った。 部屋では、結衣らしき女性が部屋の隅に体育座りをして、こっちを見ている。 「やっぱり結衣ちゃんだ」 「…おじちゃん、なんでこんなトコに居るの?」 結衣は、今にも泣きそうな顔だ。

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