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サブスク時代の作曲家生存戦略! Audiostock収益6か月分を大公開

こんにちは。isshyです。
初めましての方、よろしくね。まいどの方は、まいどどうも!

※こちらは、2020年4月18日時点の情報に基づく記事です。

さて、商用BGM販売サイトAudiostockで「定額制プラン」が昨年末に発表され、2月から本格稼働しました。

まずは状況説明。当音楽事務所のデータ半年分を公開します。

<販売曲数>

曲数グラフ

<販売収益>

金額グラフ


この結果を前に、タマ事務所マネージャーはこんな気持ちでした

●単曲販売での曲数が半減、全体収益も40~50%減
●定額プランでの楽曲単価は強烈な廉売。
 1月218円、2月79円、3月86円/曲
●3月の定額プランは112回ダウンロード。
 もし単曲販売だったら168,000円位の報酬だったのに貰えた報酬は9,563円。

クリエイターの収入を増やすための施策です、との説明でしたが、当事務所は上記の状況です。開始から3か月様子を見た結果と4/1から始まる個人向け定額プランの告知とを考慮して、私たちは3/31づけで定額プラン参加を解除しました。

定額プラン開始以前にコンスタントに売れていなかった作曲家の皆様は、このダイナミックな変化に気づくことができないと思われるので、すごく迷ったし、とても恥ずかしいのですけど、私達の実績データとこのレポートを公表することにしました。

以下「サブスク時代の作曲家生存戦略」。最後まで無料です。
特に、未来のあるお若い作曲家の方々に参考にして頂けたら光栄です。


●記事の書き手と作曲家の紹介

てかオマエ誰やねん? ですよねw 
私isshyは作曲家タマの嫁で、彼の個人事務所のマネージャーです。
オバサンだよ(痛) 美人じゃないよ(痛恨)
本職はテクニカルライター。機械やシステムの取扱説明書を企画執筆するフリーランスのライター&編集者です。今は公共系システムの取説を執筆中。
旦那を手伝った夫婦共著はこれ

作曲家タマの事務所サイトはこちらバイオグラフィーロングインタビュー
…ってか作曲家の紹介は読むより聴かなきゃ。はい2分半。

このnoteでは、作曲家のマネージャーの立場から今回のAudiostock定額プランについて考察します。
長くなるけど、有益情報のつもり。よかったらお付き合いくださいませね。

●4~6月の定額プラン参加は要注意!

一番伝えたいのは、とにかく今すぐ、この4~6月は、定額プランを脱退した方が良さそうってことです。定額プランはデフォルト参加なので、自発的に抜けないと、参加設定になっています。

定額プランの報酬計算式(参加クリエイターのみ公開)は、つまるところ、プラン会員様から集めた総額をどう山分けしようか…ってお話だよね?

この4月から個人向けの定額プラン(月額1980円)が開始され、スタートキャンペーンは3か月99円です。Audiostockさん側から補うお話も特にありません。つまり・・・

山分けしようにも、原資がナイ(爆)

また、ダウンロード総数が多い月に自分の曲がダウンロードされると1曲の単価が安くなり、少ない月には高くなります。
ダウンロード総数が多い月っていつですか? 

今でしょ!?

サブスクプランに入ったら、嬉しくてたくさんダウンロードしよう!って思うのが人情ですよね?アタシだって間違いなくそうします。
なので1~3月の実績単価より、4~6月はさらに下がるでしょう。

このカシオミニを賭けてもいい

同じ曲を2回ダウンロードする人はいません。1顧客に対する販売機会は1度きりなので、今ダウンロードされると一番安く売ることになります。

数十円で112回売れても、1万円に届きませんでした・・・

というわけで、喧々諤々の夫婦喧嘩、じゃなくて、タマ音楽事務所CEO&CFO最高首脳会議は「抜けるべし」で満場一致しました。

なお、3/31付けで抜けた後、当事務所が定点観測している楽曲の検索表示順位は(4/18時点では)いっさい変更ないことと、単曲販売も3月とおおよそ同じく、以前の半分くらいのペースで売れている事も、申し添えます。

●商用BGMとしては、画期的な廉売

今回のプランは「ブロードキャスト利用や映画利用が可能な商用BGM向け著作権使用料」の販売価格としては、画期的なまでの廉売と言えるんじゃないかしら。

例えば、帯のTV番組のオープニング曲に利用されても、クライマックスシーンに採用した映画が奇跡のスマッシュヒット飛ばしても、作曲家が受け取るのは数十円/1回のみって、ヤバくない? どうやって暮らすの?

なぜかネット上ですごく評判が悪いJASRACさんですが、当事務所の著作がイベントで使用された際の著作権利用料は1万2000円ほど頂いたので、イベントや放送利用でも1曲数十円っていう単価は、JASRACどころじゃないブッチギリ。

AudioJungleなど他の海外サイトの単曲販売では利用用途によって、1曲10~30~500ドルで販売されています。そのうち、諸条件に応じ37~60%が作曲者に支払われます。Audiostockの単曲販売は、1000~3000~6000円で、そのうち40~50数%が支払われるため、ほぼ世界標準と言えます。

しかし定額プランの単価は、お豆腐1丁より安い(ぐは)

AudioJungleでチェコスロバキアの方が300ドル映画ライセンスで買ってくれた曲が、79円で売れていて、もうね、膝から崩れたよね。高く評価してくださったお客様に申し訳ない・・・と真剣に思いました。

単価が、数十円でも、モチベーションが保てる作家さんは、お続けになれば良いでしょう。駆け出しの方は、少しでも売れれば勇気が出るし、売れる作品の方向性を確認できるメリットも大いにあると思います。

しかし、ほそぼそと無名とはいえ四半世紀以上作曲で食べてきたウチの作曲家に、79円貰えるように新曲がんばろうね!…とは、マネージャーとしてもヨメとしても言えません(;_;)

飼育担当者として日々苦労して保護育成を試みている夜行性珍獣の習性を鑑み、定額プランから抜けて単曲販売一本で勝負する作戦にいたします。

技術で食ってゆくクリエイターにとって、やる気が萎えることほど恐ろしいことはありません。この人種は、やる気が萎えた瞬間に、ヒキコモリ無職にジョブチェンしますからね。そうなっちゃうくらいなら、

「数十円で売る曲とは違うのだよ!数十円とは!!」

って闘争心を大いに燃やして挑んだら、すごい売れる名曲をうっかり書いちゃったりしないかな~~ってw

タマ氏はKONAMI出身なんですけれども、ゲーム業界には「納得の死」という言葉があります。「チッ!やっぱさっきの操作ミスで死んだか・・・」とユーザーが納得できれば、超難しくて連続爆死してもゲームを楽しめます。そういった意味で、単曲販売のみで頑張る生存戦略の方が、納得して死ねそうな気がします。(イヤ死にたくないけど)

それにね?コレ、ここだけの話だけど、お客さんから見た時に、定額プランに入ってない曲=安売りしてない=優良曲じゃないかな?って、思ってもらえる可能性、あるよね。私はこっちに賭けるよ。

DTM音源のバンドル販売だって、欲しい奴ダケがいっつも入ってなくて、「くっそ~!」って思いながら高くても単体で買うじゃんwww

●定額プラン購入企業が増えても、楽曲の販売単価は上がらない

Audiostockさんは「クリエイター報酬を増やします!営業頑張ります!」と盛んに発信します。頼もしいツイートを見て「曲の単価は、今は激安だけど、サブスク加入企業が増えたら増えるかな?」と、期待しているクリエイターも多いと思います。私も当初そうでした。

しかし、そうではないみたい。(ふと立ち止まって考えるBGM

私は、報酬計算式をエクセルに埋め込んで、簡易シミュレーターを作ってみました。↓こんなの

シミュレーター

私たちは、いったい何社が定額プランを購入しているか?を知ることはできませんけど、与えられた報酬計算式に代入すれば、収益をシミュレーションすることはできます。わかったことは下記です。

① 定額プラン購入企業が増えても、曲単価には全然連動しない。
1社あたりの平均月間ダウンロード数が抑制されない限り低単価のまま。

② 定額プランでは、沢山ダウンロードされるほど作曲家側の報酬は下がるが、サイト側の収入は常に一定。
例えば、全作曲家の報酬%割合の平均が45%だと仮定すると、サイト側の報酬割合は定額プラン総収入の55%固定です。顧客のダウンロード数が多ければ多いほど、作曲家側の利益のみが圧縮されてゆきます。

③ 定額プラン購入企業が何社であれ、1社あたりの平均月間ダウンロード数が、6.66曲ならば、報酬50%の作曲家の3000円楽曲への報酬単価は、1曲1500円となります。そう。月額2万円って6.66曲分にすぎません。
ここから逆算すると、単価が218円の月は、1社あたりの平均月間ダウンロード数は約45回、79円の月は約117回にも及ぶ(らしい)と、計算できます。

もちろん、実際の販売価格は1000~6000円の幅があるので上記の数字は正確ではありませんし、作家ごとに価格と登録曲数が異なる事による誤差も生じます。なので、ニアピン賞な数字しか得られませんが、大筋の数字の動きを理解できました。

あ、このシミュレーター、需要ありますか? エクセルあれば使えるよ。
使い方も簡単だし、説明もつけておく。マカセロ!私は取説ライターだw
報酬計算式は、関係者外には非公開なので、Audiostockで販売しているお仲間のクリエイターさんにのみ差し上げます。フォローしてDMください。


●損する作曲家・得する作曲家

・・・に分かれるっぽいのです。

前述の通り、一番損をするのは、新規加入顧客が加入する今の時期にたくさんダウンロードされてしまう、検索上位に表示されているトップランナーの作曲家陣です。

楽曲というのは、落としただけでは活用できません。よく聴いてあれこれ作業しないとBGMとして活用できないので、最初いきおい込んでたくさんダウンロードしたお客様がプロであればあるほど、全部聴くのが大変で、次第にダウンロード数が落ち着いてゆくことでしょう。そのころに後出しジャンケンで参加した方が、お得だよねw

また、ランキング上位曲をひととおり落として定番の曲調をゲットしてみると、人気の曲ってありがちかも…と思う顧客もいるでしょう。そうすると個性的な曲を求めてランキングの低い曲を深堀りするようになるんじゃないかしら?3000円だとどうかなぁって曲でも、使い放題ならとりあえず落とそうかってチャンスも生じます。

だから、得するのは今まであまり売れてなかった作曲家陣です。

でも、チャンスを得ても1曲数十円じゃ、嬉しくなくない?
しかも個人プラン月額1980円が始まったら、もっと単価は下がります。
買って頂けて嬉しいは嬉しいんですけど・・・この額で喜んでいたら、食べていけませんですもん(;_;)

●だけど時代はサブスクリプション

それでも、世界中がサブスクリプション販売に向かう趨勢であることは、間違いありません。どのプラットフォーマーも、販売ルールを急に変更することも、当然あるでしょう。抗えない流れならば、分析し、対策し、この荒波に乗って、より有利に生き残る必要があります。

その一歩として、少なくとも4~6月はやめた方がよさそうって話です。
その後も、現在の単価が幾らなのかを確認してから参入したいところです。
作曲家にとって著作物は「資産」であり「生きる糧」でですが、それ以上に「生きる意味」そのものですから。

「定額プラン以外の曲の方がやっぱ良曲多いよな」みたいになるのが理想だと思います。個人的には、作曲家まるごとでプラン参加/不参加を切り替えるのではなくて、作曲家自身が曲ごとに定額プランで売るかどうか選択させて頂き、お客様からも「定額プラン外の曲」を検索できるボタンがあったら、マジ最高だと思う。

そうすれば、今まで6000円や3000円でもバンバン売れていた曲を単曲販売に残しつつ、個性的過ぎるなどして不人気な曲はサブスク販売で売るようにできます。単曲販売で利益を確保しつつ、いまいち不人気な曲からもさらなる利益を生み出せて、作曲家もサイト側もwinwin。一緒にモリモリ儲かると思います。

Audiostockのエンジニアは凄腕です。世界一検索しやすいサイトを生み出したチームだから、サクっと実装してくれないかな~~(チラッ

では、長いのに読んでくれてありがとう! 

もし読んでくれる人がいたら、これからも、みんなに役立ちそうな情報を書いてみたいと思います。
ではまたね!


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(タマ事務所近況)
正月休みもなく3か月打ち込み続けた40数曲が完成。GWに上演予定だったミュージカル舞台は、題名すら広報できないまま無期延期に突入。作曲家もさすがに凹んだ…かと思いきや3日で立ち直り、アフターコロナ世界で流行る音楽はどんなだろうって探求中。そんなタマ氏への応援投銭は大歓迎!
ご希望の方には御礼に曲を差し上げます。マネージャーに声かけてね!

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(タマ事務所その後)
この記事は2020年4月時点の情報に基づいて書きました。
その後の社会状況などの推移を鑑みて、タマ事務所も3年遅らせて、2023年11月からサブスク販売に応じています。

おもしろかったら投げ銭をお願いします! とか言っても、くださる方が居たら奇跡だと思うw ツイッタでもnoteへでもお気軽にコメントください!