つとむ様―昨日はいろいろとありがたう。ひさしぶりで愉快でした。どうぞ、お母さま、陽子さん、そして藤代さんによろしく仰有って下さい。僕は、今夜から、もっぱら藝術的生活にふけります。本月末まで頂戴した本や、そのほか未讀の書物を全部よむつもりです。そのひまに原稿をかく考へです。「思ひ出」十五枚は、失敬ですが、あなたと、若き母のうたへるといふ香気高き詩をお書きになった陽子さんにおくらうと思ひます。多分三月八日のタイムスに出る筈です。僕はひとりぼっちの淋しい人間です。心からの友達はあなたと野瀨君だけです。どうぞ、いつまでもよき友達でゐて下さい。あなたでもお妹さんでも、佐藤氏の少說がお讀みたければ、いつでも持ってゆきます。みんなで、せんねんに勉強して、いゝものをつくりださうではありませんか。すべてのものから、捨てられてしまったやうな今の僕ー何ひとつ望みどほりゆくものとてない、さういふ寂しさ―よき友だちとよき書物に、たすけてもらうほかありません。
[消印]14.2.10 (大正14年)
[宛先]京橋区銀座尾張町
大勝堂内
品川 力 様
(日本近代文学館 蔵)
国立国会図書館 所蔵
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