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京都出島園「抹茶・ほうじ茶」との出会い

ISSENKAでは単一品種で茶葉が持つ本来の個性を、抹茶テリーヌとして楽しんでいただくという提供の仕方をしています。この考え方は私が抹茶テリーヌの試作をするなかで、さまざまな種類の抹茶を使い偶然たどり着いた考え方でした。

三大銘茶のひとつ、狭山茶

抹茶のテリーヌを本格的につくり始めて、最初に使ったものは狭山抹茶でした。地元が近く、狭山茶というものが身近にあったことが大きかったです。埼玉の日高市にある「備前屋」さんの石臼挽き翡翠という抹茶から試作は始まりました。この抹茶はごこうという品種の単一で、思えばこのころから単一品種というものに触れていました。
製菓用の安価な抹茶と、抹茶をたてて飲むことを目的としてつくられたものではクオリティに大きな差があるので、翡翠を使ってつくったテリーヌショコラの美味しさには驚きました。ここから抹茶についての追求を始めると自分の中でテリーヌの完成イメージが少しずつ沸いてきます。お濃茶を飲んでいるかのような濃密なテリーヌをつくりたい。お濃茶をたてられるクオリティの茶葉を使ってみたいと。
しかし、狭山ではお濃茶用の抹茶というものの生産量が多くありませんでした。抹茶のテリーヌには多くの抹茶を使用するので、現実的に難しいのではないかという判断にいたりました。備前屋さんでは抹茶についても丁寧に教えていただけて、抹茶を深く知るきっかけをいただけたのでとても感謝しております。

狭山ほうじ茶

狭山抹茶を探しているときに出会えたお茶屋さんのもう一店が狭山市にある「横田園」さんでした。横田園さんには特上ほうじという商品があります。
ほうじ茶はイメージはあまり上等でない茶葉や古くなった茶葉を深く炒り、香りを引き出して美味しく飲めるようにしているというものでした。しかし特上ほうじは一番茶の上質な茶葉を浅く炒っており、ほうじ茶の香ばしさとともにお茶の旨みも感じられる逸品です。
さらに自社でこのほうじ茶を使ってスイーツもつくっていたので、ほうじ茶パウダーを提供していただけました。ほうじ茶スイーツは香ばしさのみでお茶の香りなどを生かした商品がないなか、このほうじ茶に出会えたことがほうじ茶のテリーヌもつくっていこうと思えたきっかけになります。
残念ながらテリーヌに使うレベルの粒子の粉末にすると香りが保ちきれないということがあり使用を断念することになってしまいました。こちらでも親身になって私の相談にのってくださり、狭山のお茶屋さんの温かさを感じました。ただただ感謝しかありません。

さまざまな種類の抹茶

新たに抹茶を探す日々が始まります。まず自分の働く会社で使っていた有名メーカーの抹茶の上級品をいくつか試すことからはじまります。基本的に抹茶は毎年の味の平均化や茶葉の特徴を見極め引き立たせる、価格の調整などもあり「合組(ブレンド)」というものがしてあります。なのでなるべく備前屋さんで使っていた品種の系統が良いなと思い、購入するときに何の品種を使っているのか聞くことをしていました。同じようなものはありませんでしたが、勉強のために試してみるとお濃茶に使うものはとてもマイルドで、さらに自分のなかの抹茶のイメージが変わります。何度か試作を続けましたが、やっぱりごこうを使いたいという思いもあったので品種について改めて調べることに。

福岡県の八女抹茶

ごこうは玉露系の品種になります。玉露の有名産地である福岡の八女の抹茶を探すことにしました。お茶屋さんに聞いてみるとやはりごこうを使用している種類の抹茶がありました。単一のものではありませんでしたが、実際使ってみると自分のイメージに近いテリーヌをつくることができます。ただどうしても使用量の問題がでてきてしまいます。お茶会でグレードのものは、そもそもがお菓子で使うことは想定されていないので当然といえば当然の結果です。ただこのときはまだどういった味わいが地域の特徴なのかは把握しきれなかったのでさらに違う地域の抹茶を試してみることに。

愛知県西尾の抹茶

ここでの抹茶の出会いが一つの可能性を感じさせてくれます。西尾の抹茶もいくつかの種類の抹茶で試作をおこないました。その中で「これはテリーヌに合う!」そう思えるものがありました。そしてその抹茶のブレンド内容を聞くと「さみどり」という単一品種のものでした。自分が今まで試してテリーヌと合うと感じた抹茶が「ごこう」と「さみどり」、いずれも単一品種でブレンドされていないもの。偶然なのだろうか・・・。それを確かめるために単一品種の抹茶に絞って探しはじめることになります。

たどり着いた京都出島園

単一品種の抹茶を調べると、出てくるほとんどが京都の抹茶でした。抹茶=京都という認識があったので、今まであえて京都の抹茶を調べてきませんでした。そのほうが面白いのではないかということや、地元に近い狭山のものを使ってみたいということがあったからです。
しかし、様々な抹茶を試してきて私の考えは変わっていきました。おそらく油脂分の多いテリーヌショコラに合う抹茶はバランスのとれている抹茶よりも、単一の個性が突き抜けているほうが合うのではないか。地域のこだわりよりも品種に着目するほうが面白いのではないかと。
そしてたどり着いた京都出島園。ホームページの内容を見て驚きました。自分がテリーヌを試作する中で感じてきたものがそこに書かれていたのです。すぐに自分がやりたいことを伝えるメールを送りました。
するとすぐに返事が来て、単一品種の個性に着目してもらえて嬉しい、ぜひ使ってみて欲しいという内容でした。ようやく頭に描いていたものを形に出来る、本当に嬉しかったのを今でも覚えています。
この時に対応してくれていた方が出島園のブランディングを担当していた北川さんでした。後にISSENKAのデザイン関係やサイトの構築なども手伝って頂くことになる重要な出会いになります。

想像を超えるお茶栽培の奥深さ

その年の5月末、ついに出島園に行く機会が出来ました。実際に園主の出島さんに会うのは初めてでした。
出島さんはとても気さくで、何より良いものをつくりたいという気持ちが強い情熱的な方でした。こだわってものづくりを続けていると、こういった素敵な出会いが巡ってくるのだなと改めて思いました。
実際に抹茶の原料である碾茶を栽培している茶畑をみるのは初めてでしたが、出島園のとり組み方法にあらためて驚きを感じさせられました。単一品種ということだけでなく、栽培の場所も様々なところにあるのです。丘の上のほうや川の近くであったり、それに応じて土の質感も密度がしっかりとした土だったり、砂のような質感に近いものだったりと。環境に応じての茶葉の味わいの違いにも追求していました。細かくいえば肥料の種類や効かせかた、茶葉の摘み取りのタイミングなどいろいろとあると思います。
なかなか地域環境がもたらす特徴というのは掴みにくいものがありましたが、品種ごとに違う畑で栽培されているとそれをしっかり掴むことができます。そういった意味でも実際に茶園を訪れて品種ごとの抹茶を味あわせていただく機会が出来たことは、とても大きなきっかけにもなり自分のやりたい方向性の自信にもなりました。

品種の選抜

出島園では様々な品種を栽培していますが、ISSENKAではその中でも抹茶テリーヌに合うものを選抜して使っています。
抹茶を普通に飲むときはお薄で点てて光るものやお濃茶で点てて光るものがありますが、テリーヌショコラは油脂分が多いのでそれに負けない個性と味、旨味をを持ちあわせたものを選んでいます。もちろん年々によって一番良いものは変わってくると思うので、スタートの段階ではということになります。
「さみどり」「うじひかり」「やぶきた」
抹茶テリーヌではこの三種類を使用しています。
安価な抹茶の渋味だけを売っているようなものとは違い、抹茶の香りと甘味、そして旨味も感じていただけるように分量も何度も調整しました。
「さみどり」のふくよかな香りと強い旨味、まろやかな後味
「うじひかり」の繊細で鮮やかな香り、さわやかな後味
「やぶきた」の力強くお茶らしい香り、ほどよい渋味を感じさせる後味
上質な茶葉から生まれる抹茶はそれぞれにしっかりと個性を持ち合わせています。
品種ごとの味わいをしっかりと感じてもらえる三種類を選抜しました。

贅沢の最高峰「ほうじ碾茶」

狭山の横田園さんで扱わせてもらって以来の、浅い炒りほうじ茶パウダーも出島さんから提供していただきました。サンプルの封を開けた瞬間に鼻を抜けていく香り。これは普通のほうじ茶と何かが違うとすぐにわかりました。すぐにテリーヌショコラの試作をして食べてみると驚かされます。ほど良い香ばしさを残しつつ、茶葉の香りもするという理想形でした。ほうじ茶テリーヌはあきらめかけていたので、まさかこんなほうじ茶に出会えるとは。作っているときの感覚が抹茶に通じるものがあったので、まさかこれは碾茶を焙じているのではないかと思い、出島さんに聞いてみるとまさにその通りでした。
通常のほうじ茶は普通のお茶より安いイメージがある方が多いと思いますが、碾茶を焙じるということは抹茶をつくるよりさらに焙じる手間をかけるのでむしろ高くなります。最高クラスの茶葉を贅沢にも焙じるのです。碾茶の葉肉は薄いので焙じるのも非常に難しいところを、絶妙な加減で職人さんが焙じてくれます。本当にありがたい限りです。
ほうじ茶は今のところ品種の食べ比べの提供はしていませんが、試作の段階ではいろんな種類を試しています。ほうじ茶にしてもそれぞれ違う味わいがでます。今の段階ではほうじ碾茶という新しいものを食べていただきたいというところに重きを置いているので、バランスの良い味わいになるようにブレンドしていますが、後々は品種を食べ比べるのも面白いかと思っています。

抹茶への想い

今まで産地の違いで、抹茶スイーツを出してるのは見かけたこともあります。ただそれに対抗しようと思ったことは1度もありません。様々な抹茶を試した経験のなかでたどり着いたのが茶葉の品種の食べ比べだったのです。そして出島園との出会いがそれを形にさせてくれました。
シングルオリジン抹茶なので、出来の良い年、いまいちの年もあると思います。ですが自然の作物なので、当たり前なのです。一生懸命に育てても近年の異常気象では苦労がたえないでしょう。そういうこともひっくるめて茶葉の個性と向き合うということは面白いのです。
抹茶スイーツのブームというものは抹茶の認知度を上げることに貢献しました。
しかし、その反面で安価な抹茶とも呼べないレベルのものを使った商品が抹茶スイーツとして売られているのも事実だと思います。
リーズナブルな商品を否定するつもりはありません。買いやすい価格帯の商品ももちろん必要だと思います。ただ、粉末茶のようなものと本当の抹茶がいっしょくたにされてしまうことはよろしくないと思います。
本物の美味しい抹茶を飲んで欲しいと思い、そこに情熱をかけて育てている生産者の方々もたくさんいます。なので私はその想いに恥じないよう抹茶・ほうじ茶スイーツをつくっていきたいと思っています。スイーツというものを通して本物の抹茶にも興味をもって飲んでもらえたらなとも思っています。

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