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No,99.広島市の家庭ごみって分別が多くない

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いやはや、レジ袋に続き今度はスプーンが有料化になるとかならないとか?ごみ袋にするレジ袋がないので余分にポリ袋(レジ袋と同様なもの)を買うという本末転倒なのは良いとして、最近何かと環境問題について叫ばれるので、広島市の家庭ごみの現状や展望についてレポート風につらつらと書いてみる。


序論

研究背景と問題意識

現在の広島市のごみ分別種類は8種類であり、全国の自治体に比べ細分化されている。分別にいたる背景をみると1975年当時、最終処分場であった三滝埋立地が残り5ヶ月で限界に達することにより、減量化対策の一環として開始された。翌1976年、全国に先駆けてごみの5種分別による無料収集を開始した。本レポートでは、分別収集が実際にごみの減量効果をもたらしているのかを調べるとともに、ごみ処理費用の有料化がごみ減量に及ぼす効果について検討する。

第1章 広島市のごみ減量化への取り組み

1. 1 ごみ分別による減量化

 ごみ分別は減量化対策の一環であり、環境問題の中でもより身近な問題である。地方自治体におけるごみ処理事業は、当該自治体のみならず国や事業者、市民との連携や協力により運営されている。また、徹底したごみの減量化を行うためにはごみ処理事業だけではなく、ごみのライフサイクルにおける取り組みが不可欠であるといえる。  減量化が進むことにより、最終処分場である埋立地問題や焼却、リサイクルなどのごみに関わる処理費用も抑えられることが考えられる。これらの根本的な問題は家庭のごみをいかにして減らしていくのかが課題となる。
ごみ分別の目的には、ごみ削減と同時に資源の有効利用することも含まれている。全国的に調べてみると、有料化による減量化が主流となっている。無料収集を実施している広島市は、今後の減量化策の検討にあたり有料化している自治体との比較が必要である。

1. 2 広島市におけるごみ分別への取り組み

(1) ごみ計画策定および分別の経緯

 広島市ではごみの増加により排出量が市の焼却施設の処理能力を大きく上回り、1975年に『ごみ非常宣言』を発表し、具体的な施策として翌1976年から分別収集を実施した。開始時は5種分別であったが、2001年度には6種、2004年度には8種分別となり、多くの自治体ではごみ収集費用を有料としている中で、広島市では現在も大型ごみを除き無料である。広島市では「ゼロエミッションシティの実現を目指す都市」を基本理念に、2005年に「広島市一般廃棄物(ごみ)処理基本計画」を制定。市民・事業者・行政が一体となった全市的な運動として、減量化を進めていくことが重要との方針を出している。

(2) ごみ排出量の変化とごみの処理費用の現状

 2013年度の1日1人当たりの家庭ごみの排出量は498グラムであり、年間に換算すると214,681トンである。
図1は1976年度の分別開始から2013年度までの、広島市のごみ排出量の推移を表している。

5種分別が開始された1976年度から1985年度までは、1日1人当たりのごみの排出量は減少傾向にあった。しかしその後は徐々に増え始め、2000年度には過去最高に達した。翌2001年度からは6種分別に増え、2004年度には8種分別となった。2008年度までは人口増加に反してごみの量は減少傾向にあったが、2009年度以降徐々に増え始め2013年度以降はおおむね横ばいである。

図1 広島市ごみ排出量の年間推移

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出所:平成27年度ごみ排出量等の実績について―広島市 2021.3.27ダウンロード<https://www.city.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/46156.pdf >

図2に2013年度の1人当たりの処理費用の内訳を示す。費用全体は12,907円であり、焼却費用がその約半分近くになっていることがわかる。

図2 1人当たりのごみ処理費用及び内訳(2013年度)

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出所:広島市「一般廃棄物(ごみ)処理基本計画―ゼロエミッションシティ広島への挑戦―」(2015)2021.3.27ダウンロード(https://www.city.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/45093.pdf)

図3は2009年度から2013年度までの年間ごみ処理費用及び1人当たり処理費用の推移を示したものである。内訳の比率に変化はあまり見られない。焼却費用と収集運搬費用をいかに抑えるかが全体の費用削減になることがわかる。

図3 年間ごみ処理費用及び1人あたりの処理費用(2009~2013年度)

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出所:広島市「一般廃棄物(ごみ)処理基本計画―ゼロエミッションシティ広島への挑戦―」(2015)2021.3.27ダウンロード(https://www.city.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/45093.pdf)

1. 3 広島市における課題

 2013年度の家庭系可燃ごみの組成の調査結果を表1に示す。組成内容を見てみると、資源化ごみ、びん・缶・衣類、プラスチック類、その他不燃物など分別されていないごみの混入が、全体の17.4%となっていることがわかる。(近年では、2010年度が最多の24.4%の比率となっている)。このことは、可燃ごみ以外の混入が、ごみ処理費用を増大させる要因の一つとなっていることを示している。

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 広島市では、1976年7月に全国で初めて、ごみの無料化分別による減量化を推進してきた。ごみの排出量の推移をみていくと、確かに分別による一定の効果は出ている。現在、広島市では新たな減量目標として、2024年度までに年間排出量を10%削減(2013年度の303,687トンから2024年度に285,000トンへ)することをかかげている。2014年度第2回広島市廃棄物処理事業審議議会:会議要旨にて、環境政策課長は「基本的には10%削減というのも高い目標であることには変わりはないと思う。やはり、その高い目標に向かって、ほぼ横ばい状態になっている。この広島市のごみ量、家庭ごみ量の削減を頑張っていきたいという意味で10%、それから、焼却量の目標も掲げているが、これらとも連動している。」と発言している。広島市のごみの減量化は無料化を軸に、分別化と市民への啓発による減量化を進めてきたものの、ごみの排出量がほぼ横ばい状態であるため目標は困難である。表1の組成をみてわかるように、家庭系可燃ごみの約1/4に違う分別ごみが混入していることなど、新たな方策の検討が必要となっている。

第2章 ごみ処理費用の有料化

2. 1 有料化による減量化に関する先行研究

 ごみの減量化に関する研究は、主に有料化による減量化に焦点を置いている。中村・川瀬・ 宮下(2007)は、有料化政策をダミー変数を用いて分析し、従量制・定額制による減量効果を説明している。市民に対する意識レベルでは碓井 (2003) が、焼却することによって家庭ごみなら6分の1から7分の1に減量化することができる。しかしこの方法によっても、焼却灰は発生することになるので、埋立処分場を利用しなくてはならない。したがって発生量そのものを抑制する手段なしに、焼却技術のみで減量化を行おうとするには限界がある。発生量を抑制するにはごみを排出する側にごみの発生を少なくさせるインセンティブを持たせる必要がある。ごみ処理料金は自治体の税金によってまかなわれているため、ごみの排出者には排出量の大小に応じた費用の負担感がない。したがって、真の廃棄物処理費用がごみ排出行動に反映されていないと言える。最終処分場の処理料金の情報をいかにして消費者に伝え、内部化させることができるか。その方法のひとつがごみ有料化である。(p.246)
と述べている。
また、松井ら(2004)は、
ごみの分別回収等に対する市民の協力が不可欠である。こうした市民協力を促進するためには,市民の行動原理を明らかにし、それらの知見を反映した施策を立案・推進することが必要と考えられる。市民のごみ分別行動には、収集サービスの水準、市民の環境・ごみ問題に対する認知・態度など様々な要因が影響すると考えられる。(p.1)
と述べている。有料化での減量化を焦点におく先行研究の多くは、無料収集では家庭での廃棄物排出を抑制するインセンティブが乏しいと述べている。この意識レベルが低いと、いかに行政側がごみ分別を細分化しようとも、家庭ごみの中に再利用可能なごみの混入や、収集日以外にごみステーションに出されているケースもみられる。また、家電などの大型ごみに至っては、不法投棄の問題など深刻である。したがって、市民がごみ分別の意義をどのようにとらえているのかが重要である。有料化によって市民意識の調査をした中村(1992)は、市民の自衛の努力がごみ減量には重要であり、有料化はお金を絡め関心を持たせるのに有効な政策と述べている。

2. 2 中国地方の自治体におけるごみ処理費用の有料化とその評価について

中国地方の自治体の中で、近年、ごみ処理費用の有料化に踏み切ったところに、減量化効果について問い合わせたところ、以下の事実が判明した。

呉市では、2004年10月に指定袋等制度を導入した結果、家庭ごみの量は71,697トンから翌年度に60,718トンになり、15%の減量化に成功している。


岡山市では、2009年2月に家庭系可燃ごみと不燃ごみの処理の有料化を実施した。有料化前は65,264トンだったが、有料化実施の翌年度には 54,849トンへ約16%の減量に成功した。しかし、市民1人1日あたりの家庭ごみ量は、2010年度の520グラムから2011年度の532グラムへ約2.3%増加している。


鳥取市では、有料化実施後の2012年度では、導入前と比較して23%減少した。しかし、現在は横ばいである。


山口市では、2005年10月1日に旧1市4町の合併時に、「住民の負担は低い方に」という合併調整の原則により、旧山口市の指定収集袋の小売り金額に合わせて設定され、同日より有料化を実施した。ごみの量は196,751トンから、翌年には196,433トンとなった。あまり変化がない理由について、山口市の担当部署では、合併により実質世帯数も増えている中で、変化がないのは減量化効果があったと解釈しているとの見解を示している。


松江市では、2005年3月31日の市町村合併後、4月から有料化を実施した。実施前は48,669トンであったが、翌年は52,060トンであった。増加理由について松江市の担当部署では、合併した市町村もすでに有料化を実施していたが、松江市に合併と同時にごみ袋の価格が安い松江市に合わせて調整された結果、旧町村は安くなり、その分の量が増えたことが考えられるとしている。
 これらの調査結果から、ごみ処理費用の有料化は一定の成果を上げていることがわかった。

第3章 広島市における今後のごみ減量化へ向けた取り組み

3. 1 従量制・定額制有料化による効果

前章では、中国地方の自治体への聞き取り調査から、ごみ処理費用の有料化は、ごみ減量化に一定の効果があることを示した。本節では、実際にどの程度の効果が期待できるのか、中村・川瀬・ 宮下(2007)によるSURによる実証分析モデルを用いて、有料化が広島市のごみ排出量に与える影響について推計した結果を述べる。ごみ処理費用の有料化の方法は、従量制と定額制に大別される。  
従量制有料化は、ごみの排出量に応じて処理手数料を負担する方法であり、定額制有料化は、ごみの排出量に関係なく、世帯または世帯員一人当たりに付き一定額を負担する方法である。

中村らは、Zellner (1962) によって提案されたSUR(Seemingly Unrelated Regression)の手法を用いて、自治体の収集サービスに対する一人当たりの一般ごみ(資源ごみを除く)排出量と、同じく一人あたりの資源ごみ排出量を被説明変換数とする回帰分析を実施した。推定に用いたデータは2004年の全国の市町村(2309件)のクロスセッション・データである。説明変数には、一人あたり所得(対数)、平均世帯人員、男女比率、人口密度、人口密度(2 乗)、昼夜間人口比率、生活系ごみの分別数、ごみ収集頻度、資源ごみ収集頻度に加え、従量制と定額制の採用の有無をダミー変数として入れている。

一人あたりごみ排出量(決定係数:0.289)については、すべての説明変数が1%の有意水準で有意とされたが、資源ごみ排出量(決定係数:0.267)については、男女比率と定額制が有意でなく、昼夜間人口比率が5%の有意水準で有意とされた。
このモデルによる推定結果によれば、従量制による有料化では12.1%、定額制による有料化では14.6%のごみの減量効果が見込まれるとしている。この結果に沿って広島市の2013年度のごみ排出量に適用すると、従量制では家庭ごみが25,976トン、資源ごみが5,520トンの減量が見込めることになる。定額制では家庭ごみが31,343トンの減量になる(資源ごみの排出量に対する定額制の効果は有意でないために推測できない)。
さらに、価格データがある1,103の自治体サンプルを用いて、ごみ処理有料制の価格がごみ排出量に与える影響を推定した結果から、ごみ袋10リットルあたり価格を1円上昇させれば、1.5%のごみ排出量の減少が見込まれるとしている。

考察

有料化と市民意識の研究では、有料化は市民に直接的なインセンティブにより減量化が進むとされている。有料化を実施し減量化に成功しても、安定して減量化が進んでいかなくなり、横ばい状態が続き、増加の結果になる場合もある。松江市では有料ごみ袋の価格下げると排出量が増えている。これらの事例から有料化の実施の有無にかかわらず、どのように市民に対して減量化に向けたインセンティブを与えていくかが課題であろう。有料化については、適正な価格設定をどうするのか、不法投棄の増加への懸念、税金の二重取りではないかとの批判等がある。しかし、有料化とは税金で間接的に負担されているごみ処理費用の一部を、直接的負担に切り替えることである。これらの批判に対しては、行政サービスを充実させ、どのように市民に還元するのか、減量方法のPRなど市民の理解を深めていく活動が求められる。これらは、行政が市民との信頼関係を保ちつつ、イニシアチブを取ってゆくために不可欠な施策であろう。

結論

以上、先行研究や各自治体での実績からは、有料化がごみ減量に有効な施策であることが示された。広島市では、これまで市民の経済的負担に付与することなくごみの減量化を図ってきた、有料化を実施した自治体に比べ、その効果は乏しいものであり、2024年度の目標達成のためには有料化の検討が避けて通れないであろう。本研究は、ごみの排出量を用いた実証分析のみであり、排出量の削減が処理費用の減少に及ぼす効果の分析までは行っていない。自治体の予算は厳しい状況である。減量化による処理費用の削減効果や再資源化ごみのリサイクル費用など、費用に関する分析が求められており、今後の課題である。




参考文献
碓井健寛 (2003) 「有料化によるごみの発生抑制効果とリサイクル促進効果」『会計検査研究』第27巻、pp.245-261
笹尾俊明(2000)「廃棄物処理有料化と分別回収の地域的影響を考慮した廃棄物減量効果に関する分析」『廃棄物学会論文誌』第11巻、第1号、pp.1-10
芝池義一・見上崇洋・曽和俊文(2007)『まちづくり・環境行政の法的課題』日本評論社      
中村恵子(1992)「ごみ処理有料化の実態及び市民意識」『廃棄物学会誌』 第3巻、第4号、pp.292-304
中村匡克・川瀬晃弘・ 宮下量久(2007) 「ごみ減量政策とリサイクル促進政策の効果」『 計画行政』 第30巻、第4号、pp.61-68
広島市(2015)『広島市一般廃棄物(ごみ)処理基本計画 -ゼロエミッションシティ広島への挑戦-』
広島市環境局(1990)『快適で美しい都市を目指して -広島市の清掃事業のあゆみ-』第一法規出版
広島市環境局環境政策課(2014)「平成26年度第2回広島市廃棄物処理事業審議議会:会議要旨」pp.1-12
松井康弘・大迫政浩・田中勝(2004)「ごみ分別に関する行政施策の市民参加への影響予測に関する研究」『廃棄物学会論文誌』第15巻、第5号、pp.325-335
山川肇・植田和弘(1996)「ごみ有料化論をめぐって:到達点と課題」『環境科学会誌』第9巻、第2号、pp.277-292

参考URL
岡山市
http://www.city.okayama.jp/>2015年7月7日アクセス
環境省 第三次循環型社会形成推進基本計画(平成25年5月)
http://www.env.go.jp/recycle/circul/keikaku.html>2015年5月21日アクセス.
呉市一般廃棄物処理基本計画
http://www.city.kure.lg.jp/~kankyo/seisaku1_shorikei00.pdf#search='%E5%91%89%E5%B8%82%E3%81%AE%E3%81%94%E3%81%BF%E3%81%AE%E6%8E%A8%E7%A7%BB'>2015年7月7日アクセス
資料2
http://www.city.tottori.lg.jp/www/contents/1389678869453/activesqr/common/other/52d4d4ac004.pdf#search='%E9%B3%A5%E5%8F%96%E5%B8%82%E3%81%AE%E3%81%94%E3%81%BF%E3%81%AE%E6%8E%A8%E7%A7%BB'>2015年7月7日アクセス
広島市家庭ゴミ分別50音事典http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/1277099413287/index.html>2015年5月21日アクセス.
容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H07/H07HO112.html>2015年6月4日アクセス

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