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「アート思考」と「煎茶」考察③     ー美意識を鍛えよう!美術館へ行こう!ー

「アート思考」と「煎茶」をテーマに、
だらだらと書き連ねているわけですが、その3回目です。

「サイエンス思考」と「アート思考」を対比的に考えて話を展開していますが、ここで今一度断っておきたいのですが、私は「サイエンス思考」すなわち、物事を「客観的」に「分析的」に「論理的」にとらえて思考するやり方を全く否定していません。
むしろ、高校時代や受験勉強からずっと、「サイエンス思考」を徹底的に鍛え上げ、実践すべきです。問題は「サイエンス思考」のみに思考方法が偏ってしまうことです。「サイエンス思考」のみの暴走についてこの前の記事で書いております。
大切なことは、「サイエンス思考」×「アート思考」こそが求められているということです。しかし、現代の日本の我々は「アート思考」を鍛えることなく日々を過ごしてきており、「アート思考」を鍛え上げていかないと、このコロナ禍やコロナ後の日々複雑に流動し、新しいコトが日々起き、新しいモノがどんどん出て来る世界の中で、適応して行けない、あるいは、自分自身も新しいコトやモノを生み出す側になれない、ということです。

では「アート思考」をどう鍛えるか?

それには「アート思考」の核にある、「美意識」を鍛えるのです。
「美意識」は天性のものではありません、鍛えて身に付けるものです。

どう鍛えるのか?

美術館に行きましょう!
それも、美術館で常設展示を何度も見ましょう!
※ニューヨークのメトロポリタン美術館には、早朝、グレースーツのビジネスマンたちが出勤前にアートの勉強をしているそうです。(山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』pp.13)

常設展示というのは、
その美術館が誇るコレクションの中核が展示されています。
その美術館が世界に誇る名品・名画・名作が展示されているのです。
それなのに空いています。。。ゆっくり見られます。
ぜひ何度も足を運んでみてください。

ただし、そんな時間はないよ、という方は、
ぜひその名品・名画・名作に心の底から心酔している友人や先生と
一緒に一度行かれることをお勧めします。
その人から知識ではなく、
その作品に興奮している、文章にならない、その人の生の声を聴きながら作品を見てください、知識ではない、感情が動くポイントが、興奮のポイントが、共有できるはずです。

美意識を鍛えるために、私がおすすめするのは、
(立場上、東洋美術、そして関西中心になるのですが・・・)

①大阪市立東洋陶磁美術館の常設展示
②大阪市立美術館の常設展示
③泉屋博古館本館(せんおくはっこかんほんかん)の青銅器常設展示
です。

①大阪市立東洋陶磁美術館の常設展示は、
世界最高峰の陶磁器(焼き物)がずらりと時代順にそろっています。
世界水準の美意識が、この展示で必ず鍛え上げることができます。

②大阪市立美術館の常設展示の中でも、
私がおすすめなのは、同美術館所蔵の中でも、阿部コレクション・中国書画のコレクションです。
こちらもやはり世界水準のコレクションですから、世界水準の美意識が鍛え上げられます。

③泉屋博古館(せんおくはっこかん)は京都東山・鹿ヶ谷にある、住友家の美術館です。紀元前に完成した青銅器の世界水準の大コレクションが、行けばいつでも見られます。東アジアの造形物は、そのすべての基礎を青銅器に持っているといっても過言ではないでしょう。
ちなみにここは、書画も素晴らしいコレクションです。

その他、挙げればきりがありませんが、
とりあえず、世界水準の東洋美術を、まとまった量、常設展で見られるのは、関西では以上は外せないのではないかと考えています。

前回の記事から繰り返して申しますが、
「美意識」を鍛える最初は、人類が歴史の中で名品・名作・名画と価値付けて来た作品を見るようにしましょう。世界水準の美意識、人類史の美の中核を見る目が出来れば、その周辺も面白くなってきますので。必ず。

意外とお近くの美術館には、世界水準の美が存在していますよ。。。


末永幸歩『13歳からのアート思考』ダイヤモンド社2020では、
アート思考を鍛える実践例として、20世紀美術が紹介されています。
マティス、ピカソ、カンデンスキー、デュシャン、ポロック、ウォーホル。
どの実践例も非常に面白いものでした。
写真が出てきたことによって、「現実をいかに描写するか」という、至上命題を失った美術(とくに絵画)が、どこへ向かおうと奮闘したのか、
20世紀を代表する芸術家の作品から、その奮闘する作家の頭の中を覗き、
彼らの「アート思考」を追体験する内容でした。
「勉強」ではなく、思考「体験」といった感じで、本当に面白かったです。

私自身、とくに、ピカソやポロックは大好きですので、特に刺激的でした。

しかし、「アート思考」を鍛える、という話を展開するときに、
ヨーロッパやアメリカの美術/アート、あるいは現代アートのみに
逆にとらわれすぎているのではないかと思うのです。

もちろん、「アート思考」を鍛えるために、ヨーロッパやアメリカの美術/アート、現代アートを楽しむことがダメだということではありません。私自身、ピカソやポロックをはじめ、20世紀美術の大ファンであり、まだまだ学び楽しみたいと思っています。

けれども、東洋美術、それも東洋の古典美術から学び・楽しめることも相当に、いや、無限にある、というのが私の意見です。

長い歴史の中で、東アジアの中心である時期が長かった中国の古典アートの数多くある名品・名画は、一生かかっても学びきれない多くのことを教えてくれるはずです。また、東アジアの外れの島国で、中国から独自の影響を受けながら、付かず離れず、自分たちの芸術活動を営んできた日本の古典アート、ここにも学びと楽しみは無限にあります。

このような東洋の古典アートから、
「美」や「直感力」「主観力」「全体(把握)力」(=「アート思考」)を鍛えるアプローチがあってもいいと思うのです。

こうすることで、自分たち日本人の美意識や、物事を無意識下で把握するやり方が鍛え上げられていくのではないでしょうか。無理矢理に理解もせぬままに、「わび・さび」とか「禅」とかということばを表層的に使うことなく、自分たちのアイデンティティが自然と掘り起こされていくようになるのではないでしょうか。
※「わび・さび」「禅」を批判しようとするものではなく、それを表層的に使うことへの批判です。


さて、少し話は泳ぎましたが、何の話だったかというと、
アクセスのよい(お近くの)美術館には、意外と実は世界水準の名品・名画があり、その美術館の常設展示は、何よりも、「アート思考」を鍛えるために適している、という話です。

私ども、「煎茶」という茶文化を受け継いでいる「一茶庵」では、
皆さんとご一緒に「美術館へ足を運ぶ」ということを本当に大切にしています。コロナ前には、1~2か月に1回、年間8から10回は、みなさまと「美術館に行く」企画を催していました。関西中心ですが、東京でも催していますし、海外へも行っています。
東洋とくに中国美術の最高峰が結集する台北・故宮博物院を中心に、
ロンドンの大英博物館、パリのギメ美術館など、コロナ前には年に1度は海外の美術館へ学び、楽しみに行っていました。

世界水準の東洋美術から「知識」を学ぶことよりも、「美」に出会い、楽しみ、興奮し、その中で「美意識」、ひいては「アート思考」を鍛えています。

ここまで、「アート思考」を鍛えるために、
世界水準の美術に出会うこと、そのために美術館の常設展に行くこと、
そこで東洋美術に出会うこと、を薦めて参りました。
私ども一茶庵ではこの部分を本当に大切にしているわけですが、
これは「アート思考」を鍛えるための第一段階です。

第二段階は、対話型鑑賞と対話型稽古(レッスン)です。

そういえば、毎回、文章を締めくくるにあたって、
「次回は対話型鑑賞について書きます!」的なことを毎回毎回書いているような気がしています。そして、毎回毎回、話が対話型鑑賞に及んでいません。恐縮です。

次回こそは、本当に、「対話鑑賞」という「アート思考」の鍛え方と、
私どもが日々の稽古で行っている「対話型稽古」を書き連ねていくつもりです。
※そうです!私どもの稽古は、自分たちの流派の中でしか通用しない「点前」の習得に重きを置いていません。あくまでもこれからの世の中で本当に大事になって来る、これからの世の中で通用していく「美意識」や「アート思考」を鍛えているのです!

そのあたりが次回のテーマですね。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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