3.7 投資の負けに不思議なし


江戸時代の大名で剣術の達人でもあった松浦静山の剣術書『常静子剣談』にある一文から引用されたものです。「負けるときには、何の理由もなく負けるわけではなく、その試合中に必ず何か負ける要素がある。一方、勝ったときでも、すべてが良いと思って慢心すべきではない。勝った場合でも何か負けにつながったかもしれない要素ある」という意味です。

試合に勝つためには、負ける要素が何だったか、どうしたらその要素を消せるかを考えていく必要がある。また、もし勝ち試合であっても、その中には負けにつながることを犯している可能性があり、その場合は、たとえ試合に勝ったからといって、その犯したことを看過してはならない、という戒めを述べているのです。これはビジネスも全く同じではないでしょうか。

世の中には、成功のハウツーものは多いのですが、実際にはむしろ失敗から多くのことが学べるものです。日本軍の失敗から何が学べるかを扱ったものです。企業の話ではなく、軍事研究の本ですが、ビジネスに対する示唆も非常に多いと思います。

この本が示唆に富んでいるのは、「なぜ負けたのか」という問いを、表面的な現象面(たとえば、ミッドウェーでのこの作戦がいけなかった、意思決定者A氏の采配がお粗末だった、たまたま飛行機の数で負けていた、など)で分析していない点にあります。むしろ日本軍には戦い方や思考方法、行動プロセス、あるいは組織面で一定の癖があり、それが失敗の本質ではないかというアプローチで迫っていきます。組織のあり方、価値観にまで踏み込んでいるので、示唆が非常に深くなるのです。

これを、ビジネスに置き換えて、環境に対応するための仕組みやプロセスに問題があるという指摘は非常に参考になります。このように個々の戦術レベルの話ではなく、環境に対応する仕組みにメスを入れていく視点は、企業の文脈でも役に立つはずです。

負けない戦略を立案するためには天才である必要はなく、「絶対に勝てる戦略」「成功の十分条件」はありません。しかしながら、「これをやったらほぼ確実に失敗する」、すなわち「これをやってはいけない」という「DON'T」は存在します。別の言い方で言い換えると、「踏んではいけない地雷」を踏まないことが、「成功の必要条件」です。

先に、成功している投資家には3つの条件〈(1)負けない戦略、(2)他を凌駕する努力、(3)時の運が揃っている。このうち(1)の戦略に関して、「必ず勝つ戦略」を作ることは非常に難しい、というよりも不可能です。しかしながら、「負けない戦略」を作ることはできます。なぜなら、徹底的に地雷を排除していけばよいからです。

地雷の排除作業は、天才のひらめきや思いつきによる作業ではなく、地道なローラー作戦です。論理的に、緻密に、地道に考えて調査・分析すれば、多くの地雷は発見し排除することができます。地雷の大半は、当たり前の基本的なことができていないといった類いのものです。たとえば、現状の戦略や施策について「ニーズと乖離(かいり)していないか」「市場は十分な大きさか」と、基本的な事柄を常に問い直し、修正していくだけでも、かなりの部分、地雷は回避できるのです。

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