2.1. モノやサービスが安過ぎる日本の未来

バブルの時期と比較し、2020年の世界の時価総額ランキングで日本の企業はほとんど見なくなりました。ランキング上位どころか、世界の成長に追いつけない状態が続いています。企業の賃上げが鈍り、一向に消費意欲が高まりません。物価の価格差は為替では説明がつかない状況です。その結果、景気も盛り上がらない「負のスパイラル」が日本の購買力を落ち込ませています。OECDによると、1997年の実質賃金を100とすると、海外は米国が116、英国は127.2で増加しているにも関わらず、2018年の日本は90.1と減少が続いています。例えば、トヨタ自動車は春季労使交渉で一律賃上げの見直しを決め、製造業は米中貿易戦争などで業績が悪化傾向にあり、一律賃上げは難しいとしています。こんな状況では、先進国に追いつくどころか、新興国にドントン抜かれ、世界から置いてかれるばかりです。

コロナ禍が始まるまで、世界の旅行人口が増える中、日本は渡航先人気ランキングで上位に選ばれていました。その理由の一つは日本のモノやサービスの価格の安さが鮮明になってきました。かつて、物価は東南アジアの3倍で、世界有数の「コストが高い国」でしたが、今は香港、シンガポールより、日本のほうが安くなり、モノやサービスの割安さが際立っています。

例えば、世界6都市で展開するディズニーランドの入場券は日本が最安値で米カリフォルニア州の約半額です。世界のディズニーランドの大人1日券(当日券、1パークのみ、10月31日時点)の円換算価格では、東京は7500円でカリフォルニア(1万3934円)の半額ほどです。パリ(1万1365円)や上海(8824円)と比べても安さは群を抜いています。ディズニーランドは各拠点で運営主体が異なり、東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドは定期的に入場客から価格感度を調査し、日本の実情に沿いパークの価値に合わせた価格にしているとのこと。同じ現象はディズニーランド以外でも顕著です。

海外26カ国で展開する「100円ショップ」の商品は、同じ商品でも米国では約162円、ブラジルでは215円、タイでは214円です。タイでは上昇する賃金や店舗賃料分が100円ショップの価格に転嫁されていますが、それでも購買力も高まっています。中国で生産した商品も多いですが、その中国でも153円するタイのダイソーで売られる商品の価格は円換算で日本の倍します。

ホテルも安い。例えば、12月から1泊大人2人でロンドンの五つ星ホテルを予約しようとすると、キングベッド1つの50平方メートルの部屋で約17万円。東京だと同じ条件でも、約7万円超で泊まることができます。
生活に身近になったかサービスのサブスクリプション(定額課金)でも同様の傾向が見られます。米ネット通販最大手のアマゾン・ドット・コムは、動画や音楽配信、配送料などが無料になる有料「プライム会員」の年会費を米国で約1万2900円で提供。日本は今年4月に3900円から4900円に値上げしたが、それでも大幅に安いことが分かります。この割安感が訪日客を増やし、2018年の訪日外国人の旅行消費額は4兆5189億円で、2013年比で3倍に増えました。

こうした価格差は日本の為替レートが低く評価されすぎていることが理由の一つにあるとされてきました。例えばハンバーガー価格の違いから為替水準を探る英エコノミスト誌の「ビッグマック指数」。2019年7月時点の計算によると、日本で390円のビッグマックは米国では5.74ドル。同じモノの価格は世界中どこでも同じと仮定すると、ここからはじき出す為替レートは1ドル=67.94円となります。ただ、実際のレートは1ドル=110円前後で30%強円安。その分円を持つ人にとってはドルで売られるビッグマックが高く感じられます。ディズニーランドやダイソーの価格も同様に、不動産も指数化して実際のレートと比べると対米ドルやタイバーツで46~50%強の円安となり割高感が増すことになります。

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