マガジンのカバー画像

「知る」を極める

14
文化人類学は200年以上にわたり、「知る」を極めようとしてきた学問です。このマガジンでは、そんな学問の背景をもとに「知る」ことについて考えてみます。 相手を「知る」ってどういう…
運営しているクリエイター

#エッセイ

インド人に「ほんとうに恋愛なんか信じているの?」と真顔で言われた話

「ほんとうに恋愛なんか信じているの?!」 諭すような顔で私に聞いてきたアニータさんは、派遣社員をしていた時に出会ったインド人であった。 彼女は、インドのなんとかという大変有名な会社で働くSEで、日本に3週間ほど出向していた。 私は、いつもいる1階の<派遣社員&アルバイト部屋>から、たまたま4階に「出向」しており、そこで私たちはであった。 私は、ちょうど留学帰りだったこともあり、好奇心いっぱいで彼女に話しかけた。 彼女は、日本に全く馴染めずにいた。 もちろん語学の問

「縛った」とカルテに記録せよ(後編)

前半の記事で、病院施設での高齢者の身体抑制を廃止するきっかけの1つになった出来事が、「抑制をしたらカルテに『縛った』と記録せよ」という、院長の指示であったことを書いた。 私は拙著『医療者が語る答えなき世界』の1章で、高齢者の身体抑制を縛る側の医療者の観点から描いている。その執筆のために、高齢者の身体抑制を全国に先駆けて廃止した、当時の上川病院の婦長である田中とも江さんにインタビューを指せてもらったのだが、その時の田中さんの表情が私は今も忘れられない。 田中さんが、たくさん

「縛った」とカルテに記録せよ(前編)

1999年に出版された「縛らない看護」(医学書院)という本がある。これは全国に先駆けて高齢者の身体拘束を廃止した、上川病院の当時の院長である吉岡充さんと総婦長の田中とも江さんを中心に書かれた本である。 この本の中に、田中さんが書いたこんな一節がある。 “総婦長として私は「抑制をするなJといったが、スタッフは「はい,わかりましたJと素直に返答しながら、隠れて抑制していた。「抑制しないでケアなどできるはずがない」夜勤をするのは自分たちで、総婦長は理想論をいっているだけだJなど