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潜 熱

たいらかな心になったと思うと
かなしみは また 胸の扉を叩きにくる
──── どうだい おい!

わたしの口とまなじりのあたりがゆがむ
かおが ゆがむ
よどみの揺れのようなわらいがふわあっと湧く

たいらかな心は支える心とはちがうのに
支え切った心をたいらかな心だと思う
わたしは よわいにんげんである

たいらかな心はそうしてついにかえらないか
かえらないか
──── どうだい おい!

たいらかな心はたいらかな心である
かなしみはかなしみである
かなしみの大きさゆえに噴き上げる怒りを蓄めつづけている

     詩誌『駱駝』13号(1951年12月)

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1951年は日本の大きな分かれ道となった年。サンフランシスコ講和条約と日米安保条約が締結された年。そうした時代を背景にして歌われたものでしょう。

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