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静かな歌

  Ⅰ
ああ いっしょに
  そう いっしょに
生きていくのは な
  生きるために な

だけど 別々なんだ つまり
  死んでいく時にはな
生きていくのと同じように
  ひとりびとりが 静かに燃えて な

だから 生きていくんだよ
  いっしょに な しっかりと
ああそうだよ しっかりと
  結ばれて な きちんとして な

くるみ色の灯りを かきたて かきたて
  小さな声ではっきりと話し合って さ
きれいな <おはよう>が云えるように な
  あすも な あさっても な

 Ⅱ
戸を叩こう そっと
  今夜はあるじがきっといるから
戸を叩こう そっと
  年老いた医師の打診のように おだやかに 胸を

そうして 静かに待っていよう 私は
  廊下の奥から近づいてくるあるじの足音を
また 部屋灯りのスイッチの入る音や
 それから扉口で左に回される鍵の音など

戸を叩こう そっと
  私の骨の音はたとえばあるじの胸の音に重なる筈だから
悲しみの落差を均らすための話など
  今夜は夜明けまで続けることになろうから

戸を叩こう そうっと
  私の小さな しかし 今日は石のように健康な拳で
戸を叩こう そうっと
 赤いダリヤを胸に挿して 熔岩のような言葉を今は抑えて

     詩誌『駱駝』38号(1955年6月)


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