見出し画像

つのばらの花を中にして

花束が贈られる 遠い香りの
花束が渡される 私達の掌に
しかしむろ咲きのその花々を
私達の手は静かに拒む

私達のこころは
もはやそれらの花々を必要としない
私達の眼は
深い憂いをたたえて 野に 山に
それからなだらかな丘の起伏に向かって開かれ
そこに もつと美しい花々を見る
私達には もう 根のない花々はいらない
私達には もう やさしい贈物はいらない

花束を贈る手の淋しい白さ
その腕の中に私達はもう巻かれたくない
あなたの誘う墓場へと急ぎたくない

さようなら 白い手の狩人
花束を中にして
私達は静かに答えたい
私達には もっと愛すべき祖国の大地がある
もっと愛すべき日本の花々がある と

     詩誌『駱駝』駱駝18号(1952年6月)
     戦後詩人全集Ⅳ(1954年*書肆ユリイカ)

----------
戦後詩人全集Ⅳに収録の際、若干の改訂があります。
上記は戦後詩人全集Ⅳに掲載されたものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?