見出し画像

さらにまことを尋ぬべき日に

乙女よ たそがれを手提てさげにつめて
おまえはいそいそと何処へ行くのか
おまえの顔にある華やかな朝
おまえを取巻いているあわいまひる
街に若やぐ心の揺れ その波紋の上にだけあるもろいしあわせ
おまえの肩はしなやかにいかり
おまえの姿は飾窓にね 
おまえは今日もたくさんのおまえをつれて街を行く
孔雀のように か?
紅鶴のように か?
そうして 太陽が パフのように柔らかく美しいという日
はかないおまえの中心で
人の心のはるかなはずれで
おまえは 夜にむかって札ビラを切る
たそがれのつまった手提をあけて
たそがれの指を華奢きゃしゃに選んで
病んだ羽根毛の中に埋もり
明日は消えるささやかな夢をつむぐ為に
おまえは夜にむかって札ビラを切る

ああ 乙女よ
おまえはさながらに応えて美しいのに
老いのかたへとなぜ急ぐのか
午前の鹿の瞳を捨てて
明るい野辺の歌声を捨てて
浮雲の白よりもはるかに淡く
なぜに夜空へと溶けてゆくのか
たそがれを手提につめて
たそがれを胸に抱いて

  とのぐもる空の下
  ひとみな立ち上り
  さらにまことを尋ぬべき日に

     初出不明
     戦後詩人全集(1954年12月*書肆ユリイカ)収録

----------
『戦後詩人全集』は戦後の新進詩人29人のアンソロジーとして、作品が全5巻に収められています。見出し画像の左側はその広告です。礒永秀雄は第4巻に入っていて、この詩はその中の1篇です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?