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カリブ海の波音に抱かれて眠るランプの宿 (メキシコ トゥルム)

メキシコ、ユカタン半島のカリブ海側にあるカンクンは有名なリゾート地です。そのカンクンから車で1時間半ほど海に沿って南下したトゥルムという街にそのランプの宿はあります。

名前はAZULIKです。AZULIKはエコホテルとして欧米のセレブリティーには知られた存在です。エコホテルとはもちろんエコノミーではなくエコロジーのことです。トゥルムは13世紀から15世に栄えたマヤ文明の遺跡(1mくらいある大トカゲがウロウロしてて面白い)でも有名なところです。

私がAZULIKを訪れたのは開業から1年も経っていない2017年の1月のことです。現在の料金は700USDくらいになっていますが、当時はまだホテルのインフラが開発途上だったので280USDでした。

この宿のどういう点がエコホテルなのでしょうか。建物はいわゆるツリーハウスの集合体のような構成で、もともとのジャングル、ジャングルと言っても密林ではない樹木が生えている環境をできるだけ維持しつつ、コンクリートや金属の使用は最小限にして作られています。建物やツリーハウスを空中で繋いでいる通路はほとんど現地の木材で構成されています。日本の消防法ではまず許可は出ないだろう構造です。

さらにエネルギー使用も最小限です。各部屋には数個の電気の照明はありますが、基本はオイルランプです。エアコンなどは当然なく、リネン類の交換も最小限です。最近のビジネスホテルのエコプログラムのようなものです。

エントランス
俯瞰した様子(オフィシャルサイトより)
部屋をつなぐ空中の通路
エントランスから部屋へ
ジャングルの中のツリーハウスが並ぶ
こうして見ると掘っ立て小屋のようだがそんなことはありません

部屋にはそもそも壁があまりありません。外との境界は一部にガラスが入ってはいますが、基本的には木の枝で作られた格子状の目隠しだけでカーテンはありません。つまりスカスカでスケスケなのです。オーシャンフロントなので海からの湿気った風が容赦なく入り込んできますが、そういう宿なのです。虫も入ってくるので部屋に蚊取り線香と虫除けになるアロマオイルが置いてあり、これが結構効果がありました。

AZULIKにはプールのある部屋もあるようですが、パブリックなプールはありません。海までは歩いて30秒でもビーチはごく一部にしかなく、絶壁か岩場がほとんどです。そもそもこのエリアのカリブ海は我々がイメージするほど綺麗ではないのです。圧倒的に沖縄や宮古島の方が海は美しいです。ここは海辺にあっても私達がイメージするようなビーチリゾートではないのです。

カリブ海に面したテラス
この木材はこの付近で手に入るのだろうか
天蓋付きのベッド。天蓋と言うよりは蚊帳の役割の方が重要
バスルームのガラス壁に映り込むカリブ海
ゲゲゲの目玉親父が好みそうな茶碗風呂みたいなバスタブとオーシャンビューのテラス
陶器にタイル張りのバスタブから。温水真水のシャワーもあるがチョロチョロとしか水は出ない
角度と時間を変えて
洗面台。明かりはロウソク



そしてこの宿の魅力はとにかく夜です。ひたすら夜。

先に述べたように、部屋にある電灯はトイレに一つと部屋全体をぼんやり灯す10w電球程度の明るさしかないものがあるだけ。あとはオイルランプとロウソクが5個くらい。夜はかなり薄暗い中で過ごします。日本のランプの宿と呼ばれるところは、青森の青荷温泉、秋田の鶴の湯、岐阜の渡合温泉に宿泊しましたがそれらとはここは全く別物です。自然との一体感が桁違いなのです。それはきっと壁がなく、自然の音しか聞こえてこないからだと思います。

こうして徐々に研ぎ澄まされていく視覚に、聴覚として波音が加わります。風の音、波の音、虫の声が鈍りまくった感覚をゆっくりと回復させてくれます。こうしたことは例えば日本でキャンプをしても近い感覚が得られるでしょうが、遥か遠くユカタン半島の地にいること、目の前に広がる海はカリブ海であるという非日常性が、どこかに行ってしまった感性をより強く呼び戻してくれます。

ここはきっと欧米人以上に日本人にこそ向いているような気がします。近い感覚は、ドバイから車で1時間ほど砂漠に入った砂漠の中のホテルでも感じたここがあるので、これはまたいつか紹介したいと思います。

デジカメで撮影しているので明るく写っているが実際にはこの3分の1くらいの明るさ
ベッドから

AZULIKには子供は泊まることができません。宿泊していたのは7割が男女のカップルで、残りは同性のカップル。特に一般的に言う男性同士のカップルが目立ちます。といってもハッテン場的なことは全くないので大丈夫。確かに恋人同士や夫婦で行くよりは、感性がギリギリに鋭い同性同士のほうが絶対にフィットするでしょう。私にもなんとなくわかります。一般的なロマンティックな場所ではなく、素で過ごすところなのです。なのでハネムーンにはおすすめはしないです。ハネムーンとは実は決して素で過ごすべきイベントではないと感じるからです。

因みに私はここに一人で2泊しました。それはそれで悪くはありません。(最近は目の前のビーチはヌーディストビーチとなっているという情報があります。その可能性は高いと思います。そうだとしてもそれがここでは自然だから、と言うことだと思います。)

AZULIKの公式WEBを見た感じでは、私が宿泊した2017年と比べると今は設備的にはかなり充実しているようです。なのでお値段も2.5倍。当時のホテル内のレストランは高い割には印象に残るようなものは何もありませんでした。今は和食レストランもできているようです。バーもありますが音楽は一切なし。ここはそういうものを求める場所ではないのです。食事は外に出るのが正解です。

そして言うまでもなく、部屋にはWiFiもテレビも電話もありません。携帯電話は普通に通じます。宿の中にはWiFiがつながるエリアも用意はされています。

不思議なのはAZULIKではこんなに自然との一体感を感じられたのですが、空とか宇宙を感じることは全くなかったのはなぜでしょうか。ここは天ではなく地を感じる、地上付近の密度がとても濃い場所だったのです。それはこの地が持っている何かの力のせいなのかもしれません。


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