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いやあいい湯だなあ、まるほん旅館 (群馬 沢渡温泉)

2024年夏の青春18きっぷを利用して、noteで教えていただいた群馬県の沢渡温泉 まるほん旅館に投宿してきました。情報通り、お湯が素晴らしかったです。

日本の旅館というのは料理が売りであることが多く、逆にこれがネックになってしまうことも多いと思います。宿泊サービスと飲食サービスというのは案外似て非なるものだと思っていて、両方のバランスを取るのは案外難しいものだからです。

それはホテルで考えればすぐに分かることで、ホテル併設の飲食店というのは、駅ビルの飲食店と同じで、総じて値段の割には美味しくないものだと私は思っています。ホテル内ではなく近く飲食店の方が、どのランクであってもレベルが上であることが多いです。

まるほん旅館さんは、食についてはよく見ると徹底的にコストを抑えていて、にもかかわらず、それを意識させることなくとてもバランスが取れています。こうした経営努力はさすが元銀行マンだったらしいオーナーさんです。2名1室1泊2食で13,000円です。週3日はお休みです。

求めるポイントを間違わなければ、こんなすばらしい宿もまだまだあるんだということです。日本秘湯を守る会から脱会した話もなるほどなあと思いました。10年以内にこういうようなところで住み込みでアルバイトしたい、結構本気で考えています。

昭和の旅館の佇まい
道路側の10畳の角部屋でした。たぶんいちばん広くていいお部屋だと思います
部屋から見える真夏の景色。沢渡温泉には現在9軒の宿があるようです。温泉街といえるギリギリの規模ですね

沢渡温泉はお湯で勝負の温泉街です。一般的な観光スポットは特にありません。眺望がいいわけでもありません。目立った特産品も聞きません。すぐ近くを流れる上沢渡川では鮎をはじめとする川魚も採れそうなのですが、なぜかどの宿もそれをアピールしていません。飲食店はあるにはありますが、夜飲みに行けるようなお店はありません。

でもお湯がいいからそれでいいのです。

まるほん旅館の大浴場は混浴です。2階から1階に階段を降りると、中空の廊下のようになっていて、そこからさらに階段を降りると左右に湯船が2つあります。

2階から1階へ向かいます
浴槽へのアプローチがこのように独特です

脱衣「所」はなく「空間」だけです。上の写真の左端と、写真を撮っている場所の後ろの2箇所がそれです。仕切りはぼぼ何もありません。

このように、混浴としてはなかなか難易度が高いということになろうかと思います。お湯も無色透明で、湯浴み着の着用はNGです。さらに洗い場も1箇所です。そのためでしょう、入浴中に女性が入ってくることは同行の家人も含めてひとりもありませんでした。

つまり混浴となっていますが、事実上そうはなっていないように思われます。まあ風呂の構造と泉質が秀逸すぎて、混浴かどうかはたぶんあまり関係ないです。混浴にはエロティックさとは無関係の非日常性が魅力ですが、ここはあくまでも湯で勝負しています。

ちまちま男女別の風呂を作るより、こうしてドカンと一つにまとめた方がきっと心地いいんですよ。ジェンダーレスの時代だし。

2つある湯船のうち、こちらの方が若干ですが熱いです
湯口その1
100%源泉(51.6度)かけ流しで、ティッシュペーパーみたいに浮いてるのは全部湯の花です。
反対側から。写真真中左側が洗い場です
湯口その2

しかしご安心ください。大浴場には朝と夕に女性専用の時間帯が設定されています。ネットの情報にもありましたが、その表示はわかりやすいものではないので、間違えて入って来るという可能性はあるかもしれません。またこの後紹介する女性専用の全く異なる趣の風呂もちゃんと用意されています。

明るい時間に、大浴場を渡り廊下部分から見下ろした様子がこちらです。オープンな脱衣空間が分かりますよね。

こっちが少し熱いかな
こっちのほうが狭いです
最初はかなり熱く感じます。1分くらい入って出るを数回繰り返すと、不思議なものですっかり慣れます

お湯が本当にいいのです。僅かな硫黄臭があり、だいたい透明。源泉を口にするといわゆる卵っぽい感じ。アルカリはさほど強くはないので、入ってすぐ肌がヌメヌメということはないです。

やはり高温ということもあって、結構湯が身体にバシバシと入ってくる感じがします。最近お気に入りの、湯河原のままねの湯にちょっと似た感じがあります。

沢渡温泉には源泉は1本しかないそうです。その源泉から一番近いのがこのまるほん旅館で、すぐ隣には共同浴場があります。宿泊者は無料で、300円で誰でも利用可能です。共同浴場も結構熱い湯です。私はここで1時間も、自称公務員、実は単なる年金生活者の地元の爺ちゃんたちと話し込んでしまいました。ここでは私などは完全に若造でしたが、楽しくお話してました。

こちらが沢渡温泉の源泉です
共同浴場 沢渡温泉組合のWEBより



続いて普段は女性専用になっている、もう一つのお風呂です。大浴場とは趣が全く異なるお湯です。

雰囲気は一変して、今風のデザイン性の高い風呂です
高い天井

こちらは檜風呂です。湯温は大浴場は低くて40度あるかどうかというくらい。宿の方に聞いたところ、温度調節は季節(外気温)に応じて投入する湯量を変えて調整しているのだそうです。この時期は気温が高いので湯量は少なめで、冬場はかなりドバドバ入れているとのことです。次回は冬場に来てみたいです。

ここは朝夕に男性専用の時間帯が設定されています。

湯口

こうしたモダンな空間デザインは、休憩スペースにも踏襲されています。これ、部分的な改築なのでけっこう大変だったんじゃないかなあと思います。なにかの賞を受賞したと書いてあった気がします。

こんな休憩スペースも
眼下に見えるのが大浴場の屋根です

これらのお風呂の違いが、単なる湯治場ではない、温泉旅館としての魅力を創り上げています。

では食事も紹介しておきます。まずは夕食です。

デザートのコーヒーゼリーまで含めて、全てすでにテーブルにセットされています。左端が山菜釜飯、となりが豚肉と野菜の蒸し物で、これらは着席すると着火してくれます。あと椀物も持ってきてくれます

サーモンやカルパッチョではなく生ハムでした。

国産の生ハムです
ホタテやエビです。右はふきのとうで苦みが美味しかったです
白身魚の焼き物
もずくと山芋
煮物
茶碗蒸しにはチーズ入り
椀物は味噌汁
野菜蒸しのいちばん下にはたっぷり豚肉が敷いてあります
山菜の釜飯。山菜は地物という感じではなく、業務スーパーで売っていそうなものではありますが美味しかったです

品数ではなく器の数がたくさんあるのでとっても豪華です。これはエコノミークラスとビジネスクラスの食事の違いみたいなものです。ファーストクラスになると流石にちょっとレベルが上ですが、中身はよくよく見ると実はほとんど同じであることに気が付きます。ビジネスクラスは器が複数ですが、エコノミーは遥かに少なくて弁当箱みたい。これだけのことで、ビジネスクラスは遥かに満足度が高いのと同じです。

一気出しでもなく、最初から料理全部出しというのも省力化には必須でしょう。ですが温かいものは暖かく、を実現するために、固形燃料で加熱または調理できるものをメニューに加えています。揚げ物は出ません。刺し身などの生もの場所柄や価格、調達数などの関係から提供されないようです。

でも、全く問題ないです。まず見た目が豪華。家でこういう絵面にはなりませんからね。そして全部ちゃんと美味しい。手抜きではなくコストセーブが徹底されています。それでいてそれを感じさせない工夫が素晴らしい。

いいのです、風呂で勝負してそれで圧勝なのですから。



翌朝は、露天風呂にも入ってみました。これは建物と建物の間の屋根の上みたいな場所に設置されていまして、入口の鍵をかけるので事実上の貸し切りです。食堂の上にある3階の部屋から、覗こうと思えば覗き見ることができそうですが、たぶん3階の部屋は基本使っていないんじゃないかと思われます。まあこんな宿まで来てそんなことをしたいと思う人はいないと思います。

朝方雨が降りました
なかなかマニアックなロケーションの檜の露天風呂
湯口

ここのお湯が一番ぬるいのですが、硫黄臭は一番強いよう感じました。


では朝ご飯です。朝食も全部出しで、ご飯と味噌汁が運ばれます。テーブル加温する品はありません。

ごく一般的な旅館の朝ご飯です。卵は温泉卵、納豆はなく、アジの干物ではなくてサバの塩焼きです
全部美味しいです

夕食でも思いましたが、全体として味付けが出汁をちゃん使っている関西風です。出汁に関しては関東は明らかに雑だと思いますので私はとっても満足です。

まるほん旅館には車を使わなくても、JR中之条駅まで行ってそこからバスで行くことができます。新幹線を使ってもアクセス的にはあまり早く着くわけでもないので、青春18きっぷが使える時期がおすすめです。


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