「夏物語」(川上未映子 著)
まず不思議な装丁です。一見して女性の身体であることは分かるんだけど、どの部分なのか判然としない、ふくらみもない。最小限の線で描かれた、それ以外の要素を持たない存在としての女性。
この小説に出てくる女性はみなそれぞれに魅力的です。第一部で哀れな姿をさらしつづける巻子が、最後にとうとう言葉を発した緑子に語りかける場面。
これを読んで、なぜか私は巻子の「生きものとしての力」を感じずにはいられなかったのです。巻子がくぐり抜けてきた時間は、それがどんなものであっても残らず彼女の生命を形づくる材料になっているんだなと。
ともかく川上未映子さんの文章がすごすぎる。何気ない会話にはさまってくる鋭い洞察と、ここぞという時の畳み掛けるようなテンポ。特に終盤、夏子が恩田と会ってからの展開は、もう読んでるのがつら過ぎるけど読み進めるしかないという感じで、ほとんど泣きながら読んでました。笑
第二部は一見すると生殖医療をテーマにしたような感じで進んでいきますが、途中でこれは明らかに「生まれてくること」と「生きること」そのものの意味を問うているということに気付かされます。その問いを突きつけてくるのは、間違いなく善百合子です。
作中で3回しか出てこないのに、もうずっと頭の中から離れていかないほどの存在感。あの問いかけに、私も夏子と同様、何を言ってるのかが(とても)分かるような気がして、自分自身の見てはいけない部分を見てしまったような、心がぐらぐらと揺さぶられるような感じがしました。
夏子の存在そのものをかき回されるような動揺に、私も巻き込まれてしまってどうしようもなくなっているところに、逢沢があらわれ、観覧車で空に登っていくところ。第一部の観覧車を思い出さずにはいられなくて、なぜかまた泣けてきました。
私たちはなぜ生き続けなければいけないのでしょうか。私の中でこの問いにはある程度の答えを持っているつもりでした。でもこの本を読みながら、本当に自分がこの問題をきちんと考えてこれたのか、答えと思っていることが答えに値するのか、もう少し考えてみようと思ったのでした。
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