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会社が分割されたら痛みを感じますか? 『ISO通信』第76号

会社を廃業することを決意した男性から、転職についての相談を受けました。 
「ジリ貧になる前に撤退しました。黒字で借金のない今が会社を畳むときだと判断しました。しかし、世間は私を経営に失敗した人だと思うでしょう。転職活動で苦労することは覚悟しています」
とその男性(Aさん)は言いました。Aさんは電気工事を請け負う会社を経営していましたが、後継者がいないことや競争の激化で利益水準が下がっていることから、廃業を決意したそうです。
「創業して50年、父の跡を継いで20年。利益が出ていないわけじゃないのに、なぜ廃業なのかと散々に言われました」
私はAさんに
「何度も聞かれたと思いますが、M&Aで譲渡することは考えなかったのですか」
と質問しました。
「私にとって会社は自分そのものでした。半分に分割されたり、そっくり他人のものになってしまうことは耐えられませんでした。ほとんどの社員の行き先を世話することができたので、最低限の責任は果たしたと思います。M&Aの会社の人からは、譲渡先を探せば数億円で売れますよ、と言われましたが、自分で将来性がないと思っている会社を高く売る気にはなれませんでした」
この発言を聞いて、いろいろなことが頭に浮かびました。
・非常に潔い人だ。
・自分が社長なら、M&Aで高く売りたいと考えるだろう。
・実際には、経営状態が厳しくて売れる状態ではなかったのかもしれない。
などと考えましたが、真っ先に思ったことは会社を自分の体のように感じていることの凄みでした。
体を半分にされるくらいなら、廃業を選んでしまうというのは、経営者のエゴかもしれません。しかし、それくらいの覚悟がないと、会社を存続させることは難しかったのでしょう。

この話を聞いて、かつての上司から叱責されたときのことを思い出しました。
「お前はなぁ、社長の気持ちになって仕事したことなんてないだろ!俺はあるよ。俺は社長にはなれないけど、社長の気持ちにはなれるんだよ!」
当時の私は課長にもなっていなかったので、社長の気持ちなれと言われてもムリ、と内心で思いました。しかし後から考えて「社長にはなれないけど、社長の気持ちにはなれるんだよ」と言った部長の言葉をカッコいいと思いました。そして、自分が担当している顧客の前では、自分が会社を代表しているつもりで会話するようになりました。しかし、交渉が行き詰まると先方の課長から
「磯さんと話してもらちがあかないので、部長の〇〇さんと一緒に来て下さい」
と言われてしまいます。そんなとき
「部長が来ても、社長が来ても、私と同じことを言うはずです」
と言ってみたこともあるのですが、実際は部長が妥協点を示して交渉がまとまることがほとんどでした。

それでも、自分が会社を代表している気持ちで仕事に臨むことは大切です。それを習慣にしていれば、会社を自分の体のように大切にしている人からも信頼されるようになるでしょう。

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