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「diploma x kyoto 21」を審査して感じたこと

Diploma京都の審査員としてたくさんの卒業設計を見せていただきました◎今年はコロナ禍により、制作活動の制約やオンライン形式のプレゼンテーションの機会が多く、シートやパース・ドローイングのプレゼンテーションが多いのではないかと思っていましたが、会場に入ると例年と変わらない強度のある模型がたくさんありました。全体的にすごくレベルが高く見ごたえがありました!

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今回は個人賞を決めるということで、大きく2つの軸で選びました。

① 提案に対して、適切かつオリジナリティのあるプレゼンテーションがされているかどうか。

② 全体の「形」に対して、どういう体験をするのか、何を感じるのか、を丁寧に伝えようとしているかどうか。

つまり「俯瞰の視点」と「体験の視点」の“行き来”ができているかどうか、

です。会場を見渡すと、②の視点が少ないように感じました。


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そういったもののなかで最後まで個人賞をどれにするか悩んだ4作品です。

091_小川璃子さんは、積み上げてきたスタディ・想いが適切に表現されていて、ひしひしと伝わってくるものがありました。模型・ドローイングを含めて、展示自体も魅力的になっていたので、個人賞に選ばせていただきました◎

005_大桐佳奈さん_樹木寄生  生死の連鎖とユートピア

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建築の断面図だけでなくその周りで展開される生態系のシステム図や100年後の物語まで、緻密に描きこまれた絵巻物のようなドローイングに惹かれました。
時間軸を表現するための、積層していく紙芝居のプレゼンテーションも素晴らしかったです。このストーリーにいきつくまでたくさんの葛藤はあったと思いますが、やはり設定がファンタジーなので、最終的には何でも出来てしまうというのでは、、?という点が少し気になりました。

007_化生真依さん_みゆきもりくんモノガタリ-小学校の終焉と懐かしい未来-

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絵本から抜け出てきたような動く小学校のドローイングに惹かれました。最初は建築の提案として成立しているのか疑問でしたが「みゆきもりくん」そのものが提案なのではなく、建築(この作品の場合は旧小学校の空間を解体して街の中に再編集したもの)とこれを理解してもらうための手段の提案、とのことで一気に現実的で説得力のある作品だと感じました。建築を理解してもらうために「みゆきもりくん」というファンタジーを共有する過程は建築含めた他の媒体にも応用できると感じ、とても可能性があると思います。少し残念だったのは、ドローイングが描きこまれすぎていて、どこに提案があるのかがわかりにくかった点です。表現に色の付け方や描き込みの強弱など、ドローイングがもう少し引き算されていても良いかなと思いました。

061_中野紗希さん_まちの内的秩序を描く-

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意図せずできた魅力的な空間から導く住まいの提案-実際に体験した空間について、一度自分の中でスケッチというフィルターを通して、空間の質を丁寧に整理してから、再度組みなおして設計しているのが良く伝わってきました。
その結果、組みあがった街に、同じような屋根がかかっていることは疑問でしたが、街全体を一棟の建物に見せたいという意図が説明されていて、バラバラの要素をひとつにまとめるための手法なのだと納得しました。惜しいなと思ったのは道と道の際の空間の描写が中心で、実際に滞在する空間についてはあまり言及がありませんでした。例えば、主人公を立てて、こんな道を巡って、こんなことに気づき、こんな時間を過ごした、というストーリーがあればなお説得力が増したかと思います。

91_小川璃子_小さな日常、長い一瞬。 私とまちの暮らしの設計図

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ドローイングが美しくとても惹かれました。街を何度も往復するうちに、獣道のように自分の道ができていって、そこから気づいたものを自分の空間に反映していくストーリーも説得力がありました。  
ストーリーを表現するための工夫として「街を見る目の解像度の変化」を、描き込みと余白による複数枚にわたる定点観測のドローイングで行いつつ、「自分の気づきの再現」を撮りためた写真を立体的に貼り合わせた街並み模型として表現することで、自分の目で見て感じたものを伝えようとしていることが分かりました。全体のプレゼンテーションのテイストが揃っていて完成度が高かったです。


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その他気になったものを少し、、


56_足立祐花さん

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ひとつづく様相少し欠けた空間をつなぎ合わせて、お互いで補い合いながら暮らしを作っていく提案とのことで、わざと足りないものを作るためのデザインコードが面白かったです。模型も作り込まれていて、説得力がありました。


67_石村真子さん_mon rêve

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バレエの衣装や振付をモチーフにして住宅をつくる提案で、ドローイングがかわいく、表現された空間が多様で素敵でした。衣装をそのまま空間にしたようなプレゼンテーションだったのが残念で、素材やかたち(薄いレイヤーの重なり、曲線など)、髪型・髪飾り、ポーズや多用される動きなど、ひとつひとつを分解して、空間にどう反映していったか説明があるともっと良かったです。

ちなみに娘はこの作品がお気に入りみたいです。


78_赤嶺圭亮さん_Capacity for adaptation ー状況変化に適応する、可変性の設計ー

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「可変」についての膨大な量のスタディと、統一されたグラフィックや色味によって世界観が表現されていて説得力がありました。少し残念だったのがドローイングをみても、時間の経過に沿ってどこがどう変化しているのかがわかりませんでした、、1枚のドローイングの中に「複数の時間の層をどう表現するか」という切り口で描くことができると面白くなりそうです。(なんなら私も取り組んでみたいと思いました、、!)


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他にも色々少しずつ気になった作品の多い卒業設計展でした。卒業設計をがんばってこられた学生さん、運営に関わってこられたみなさま、ありがとうございました!

(野口)

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