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アリに擬態するクモの悩み事

動物がほかのモノや生き物に姿を似せることを擬態と言います。

その中でも非常に精巧な擬態の例の一つが、アリに擬態したクモ、『アリグモ』です。アリグモはハエトリグモ科のアリに擬態する徘徊性のクモ類で、日本には6種、世界中で200種以上のアリグモが知られています。

アリはギ酸という毒を持ち、大あごを駆使し、集団で行動するので多くの生物から危険な生物と認識されています。そのためアリに姿を似せることで、アリグモはカマキリなどの捕食者から逃れていると考えられています。

このアリグモと同じ仲間である他のハエトリグモの生態は、地面を歩きながら獲物を探すというもので、造網性のクモがはるような網を張りません。餌をとらえるためには、獲物に近づきとびかかるジャンプ力が重要になります。

そのため、ハエトリグモはジャンプするのに適した姿をしています。

では、アリグモはどうなのでしょうか?ジャンプに適した体を有しているのでしょうか?それとも、ジャンプ力が落ちて、アリに似て歩くことに特化しているのでしょうか?

この疑問に答えるため、兵庫県立大の橋本准教授などの研究グループによって研究が行われました。研究結果は2020年に、natureの姉妹紙であるScientific Reportsに掲載されています。

橋本准教授らはマレーシアやタイに生息している、アリグモ7種(86個体)、ハエトリグモ類12属(70個体)を用いて、エサであるハエを捕食する様子をビデオカメラで記録することでジャンプ力や捕獲成功率を調べました。その後、形を主成分分析という手法でクモの形を数値化し、クモの形とジャンプ力の関係を調べました。

すると、ハエトリグモは体長の3倍程のジャンプ力がある一方、アリグモは7種とも体長と同じくらいの距離のジャンプ力であることがわかりました。そしてジャンプ力が低いアリグモは、ハエを捕獲する成功率も大きく低下していたのです。

その後、形を数値化する解析から、ジャンプ力や捕獲成功率が低くなるのは、アリによく似ているアリグモほど顕著だと明らかになりました。

これらの研究によって、アリグモはアリに似れば似るほど、捕食者への防衛効果が高まりますが、獲物をとらえる捕食などの面で不利益を被ることが明らかになりました。

本研究はアリグモが研究対象でしたが、擬態している生物は自然界に数多くいます。それらの生物については擬態する利点が注目されがちですが、擬態するうえでさまざまな不利益もあるかもしれません。

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以下、引用文献
Hashimoto, Yoshiaki, et al. "Constraints on the jumping and prey-capture abilities of ant-mimicking spiders (Salticidae, Salticinae, Myrmarachne)." Scientific reports 10.1 (2020): 1-11.

Cushing, Paula E. "Spider-ant associations: an updated review of myrmecomorphy, myrmecophily, and myrmecophagy in spiders." Psyche 2012 (2012).


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