ラスト・エンカウンター
アラームが室内に反響する。起床の定刻。男は目を覚まし、ゆっくりと上体を起こそうとし――すぐに倒れ込んだ。男は既に老体で、体力は限界であったのだ。男はもうニ、三度試したが、遂に断念し、手元の装置を操作した。二つのモニタが現れた。
一つ目のモニタには、宇宙空間の映像が映っている。老人は目を細めて数秒凝視したが、すぐに関心を失った。
二つ目には、軍服姿の若者の写真が表示されていた。若々しく、希望に溢れた表情。それは老人の若き日の肖像であった。
老人……シンは宇宙防衛隊の一員である。数年に渡る訓練を耐え、選抜され、宇宙基地へと渡った。予測では、数年以内に敵対宇宙生物が来る筈であった。華々しい勝利が約束されていた、その筈であった。
10年待てど、20年待てど、敵の来襲はなく……60年が経過した。部隊員は一人、また一人と亡くなり、シンが最後の一人となった。一度の交戦を迎える事なく、隊は全滅を待つばかりであった。
(俺たちの生に意味はあったのか?)
孤独な日々がどれだけ続いただろうか。あとどれだけ続くのだろうか。虚しい静寂が、シンの折れた心を更に苛んだ。
このまま虚しい日々が続くだけならば、いっそすぐに殺してくれ。……シンは思考を放棄し、寝につこうとした。
『BiBiBi!BiBiBi!』
それは唐突に鳴り始めた。起床アラームとは異なる警告音。当然、シンは意味を理解していた。
(敵襲だと?)
シンははじめ、幻聴ではないかと疑った。次に機器の故障を。しかし、モニタを視認したとき、あらゆる疑念は吹き飛んだ。
画面上に、一匹の海老がいた。正しくは、無数の触手と、八つの眼を持つ巨大甲殻生物……その瞳が、モニタ越しにシンを凝視した。直後。
『こんにちは。お茶しませんか?』
シンの脳裏に声が響く。女性の声であった。異形からの突然の誘い。シンは困惑し……気づけば、迎撃砲のスイッチを握りしめていた。
(続く)
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