見出し画像

【ネクロリーパー2021】


 その日、僕は姉さんと再会した。その日、僕は姉さんに殺された。


 僕には三つ上の姉がいた。病弱でいじめられがちだった僕を、姉はずっと助けてくれた。優しかった姉さん。でも、小学三年生の夏、突然姉は亡くなった。

 いつしか姉を追い越し、中学生になり、高校生になり、大学生になり――ふとした時、僕はいつも姉の事を考えていた。辛いとき、いつも心の中で姉に泣きついた。僕の中から、姉の存在が薄れる事はなかった。

 ある日の事だ。サークルの先輩が、蘇生師を紹介してくれた。

このご時世、蘇りなど珍しくありません。いかがです?あなたの想い人、私にお任せいただけませんか

 実際に、蘇生術はテレビやネットニュースで度々話題になっていた。故人の俳優をキャストした映画。ダーウィンへのモナ・リザのインタビュー記事。しかし、蘇生は一時的で、恒久的な蘇生手段は確立されていなかったのだ。

 にも拘わらず、その蘇生師は、死者を完全に蘇生できるのだという。はじめは半信半疑だったが、一瞬でも会えれば、という思いもあった。一般に蘇生術は高額で、学生では手が出せなかったのだ。幸い、彼が提示した値段は現実的だった。最終的に、僕は駄目元で頼み込んだ。


 結論から言って、姉さんは蘇った。直後、姉は姉でないなにか・・・に変わった。蝶が蛹から羽化するように、皮と肉を破って現れた、異形の骸骨。肋骨が後ろに伸び、触手のようにわななく。突然の変貌に驚いていると、数本の肋骨が僕の全身を貫いた。

 全身に走る激痛。力が抜け、感覚が薄れていく。やっぱり、蘇生師は僕を騙していたのか……やがて静寂と暗闇が訪れ、僕は死を自覚した。






 ………まだ、意識がある?


 違和感を感じた直後。全身に走った痛みに、思わず僕は跳び起きた。すると僕はなぜか半裸で、傍には、知らない女の人がいた。

「お目覚めだね。2021番くん」

 女性は僕をそう呼び、微笑んだ。

 


【続く】

スキル:浪費癖搭載につき、万年金欠です。 サポートいただいたお金は主に最低限度のタノシイ生活のために使います。