見出し画像

邪神戦争都市

 海上都市、ニューダニッチ。2040年初頭、イギリス洋上に姿を現したアクアポリス。完全自給自足を成し遂げた理想都市として、早くも市民希望者が続出。数年が経過した今でも、審査に並ぶ列が絶えない程の人気都市である。

 市民には様々な義務が生じるが、その中の一つが深夜外出の禁止。特にこの決まりは厳格で、深夜帯は一部の区域が『封鎖区画』として通行不能となり、一般区画とは物理的な『壁』によって分断される。最も、審査された優良市民らに侵入を企てる理由はないし、それに彼らはダニッチの文化的生活を満喫していた。故に、誰も夜の壁の向こうに関心を持つ事はなく、ニューダニッチの夜は平穏を保っていた――

 衝突、激突、爆突。封鎖区域の一角で、ビルの倒壊さえ顧みず衝突する二物あり。共に人型、共に巨体。メートルにして20を超える二体の巨人は、その図体からは想像もつかぬ速さで駆動し、重力影響を感じさせぬ動きで攻防を繰り広げていた。交差する拳、脚、頭。そして、触手。然り、其れらは共に異形の怪物!

『ギィィァァァァァ――ッ!』

 怪物の片割れが咆哮。全身を覆う鱗、加えて鰓の生えた魚人の相貌。背に幾つもの触手を生やした魚人の呼声と共に、周囲八つのビルが海水に満ち、程なく瞬間倒壊、もう一方の異形に対し雪崩のように崩れ被さる。

――……ッ!

 対する怪物は無言、直後物言わぬ双眸が発光。海と共に雪崩来る倒壊ビルが蒸発し、その異形が再び露わとなる。金と白に彩られた荘厳な御衣、しかし背には蝙蝠めいた翼、その貌面は蛸の如し。

 人類未誕の旧く昔、未だ地球が紅き時代。彼らは既に星々にあり、『神』として畏れられる存在であった。

 鱗の異形、海の怪物、魚神――父なるダゴン

 蛸面、燃ゆる双眸、旧神――猊下、クタニド

 蒼き星、隔離されたその場所で、神々の再戦、その第一幕が繰り広げられていた。

【続く】

スキル:浪費癖搭載につき、万年金欠です。 サポートいただいたお金は主に最低限度のタノシイ生活のために使います。