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コリジョン・スパーク:アース・バインド

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※この小説では絵文字が多用されます。
環境によって表示が異なりますが、あまり気にせずにお読みください。


😎 ☺ 😭 


 エモジオ! そこは絵文字たちが暮らすふしぎな世界。ヒトはいない。動物もいない。街を歩けばあちこちに顔アイコンの姿。そんな世界で流行っているのは……ヴァリバブル・サーガ、つまり魔札カードを使った対決だった!

💥「オレに触れたら何かが起こるぜ!」

 爆発頭がトレードマーク。スパーク!


🌎「大地のありがたみを知るがいい」

 クールな頭にシックなスーツ。アース!



🍃「は……葉っぱの裏からトラップ発動!」

 やさしい心にみどりの身体。リーフ!



 魔札対決が大好きな三人の絵文字たち。彼らの物語が、再びはじまる。



【コリジョン・スパーク:アース・バインド】



 エモジオで一番空に近い場所で一人、アースは佇んでいた。

🌎「……できた」

 彼の目の前には、地面に対して垂直にそびえるものがある。ここしばらく、彼がずっと開発していたロケット🚀であった。

🌎「あとは燃料さえあれば……ロケットが完成する」

 開発道具を置き、彼は自分のデッキを拾った。仲間たちと組み上げ、戦ってきた自慢のデッキ。

🌎「もうすぐ、ワタシは旅立てるんだ……この世界の外に」

 茜色の空を見ながら、アースは呟いた。



🌎「そういうわけで、燃料を買う必要がある」

 翌日。アースとスパークは笑顔横丁の商店街を並んで歩いていた。

💥「燃料ねぇ……この辺で売ってるかな」

🌎「問題ない。周辺の店舗はリサーチ済みだ」

 アースは自信満々に言った。だが。

🤩「すみません、燃料は切らしておりまして……」

 次の店舗も……。

🤑「そこになければないですね」

 また次の店舗も……。

😷「すみません、ちょうど売り切れで」

😀「売り切れデース!」

😎「直前にネット注文されたお客様ので在庫いっぱいですね」

 ……全滅であった。店舗で立ち尽くしてもしょうがないので、二人は公園に移動することにした。絵文字たちが魔札対決に興じている横で、アースとスパークはベンチに座っていた。

🌎「おかしい……誰かが買い占めているとしか思えない」

💥「待て、待てって! こんな時もあるって。なあ、今日一日付き合うからさ。機嫌直してくれよ」

🌎「フン……」

 ちょっと待ってろ、そうスパークは言って炭酸飲料をアースに渡した。近くの自販機で買ったものだった。アースの表情が少し柔和になった。

💥「アースはスゲェよ。オレたちが遊んでるなかでロケットなんて組み立てちまうんだから」

🌎「ワタシは目標に向かって邁進しているだけだ」

 褒められたおかげか、アースの声が少し上ずっているとスパークは感じた。

💥「いや、ほんとスゲェよ。宇宙に出て、エモジオから出て……そういえば、なんで宇宙に行きたいんだっけ?」

 不意に、スパークは質問した。少し間を置いて、アースが答えた。

🌎「……約束した奴がいるんだ。オレは先に宙に行くから、後からお前も来いよって。まあ、無視することもできたんだが……やっぱりソイツに会いたくなってしまってな」

💥「ふーん……いいじゃん。どんな奴だったんだ?」

🌎「………………おぼえてない」

 考え込んだ末にアースは言った。

💥「オイオイ、そんなことあるかよ? 会いたい奴のこと忘れちまうなんて」

🌎「う、うるさい! だいぶ前のことだし……きっとワタシも誕生したての頃だったんだ」

💥「オッケー、オッケー。まあそんなこともあるよな」

 スパークは笑った。

💥「顔や名前を忘れちまっても、会いたくなる奴がいるなんて、きっと凄い良いことなんだと思うぜ」

🌎「良いこと、良いことか……」

 つられてアースも笑った。

🌎「わずかな覚えていることだが、そいつはオマエに似ていた気がするな」

💥「おっ、どんなとこだ?」

🌎「考えなしに突っ走るところとかな」

💥「そこは褒めてくれよ!」

 そんな会話をしていた、その時だ。決闘をしている絵文字たちを挟んで、公園の向こうの道路に何かが横切った。

 🚛三三三三三三三

🌎「……今の見たか?」

💥「ン、ただのトラックだろ?」

🌎「そのトラックに書かれた絵文字だ。さっき見回った店舗のものと一致している。もしかしたら、燃料を運んでいるかもしれない」

 アースは立ち上がり、言った。

💥「そうだとしたらどうすんだ?」

🌎「決まってる。あのトラックを追いかけて、配送先の絵文字と交渉するんだ。もしかしたら燃料を分けてもらえるかもしれない」

💥「オイオイ……」

 スパークも立ち上がった。

💥「冴えてんな!」

🌎「ワタシはいつだって冴えてるさ」

💥「ようし、行こうぜ!」

 そうして、二人のこれからの予定が決まったのだった。


😎 ☺ 😭


💥「ここが燃料の配送先か……」

 二人が辿り着いたのは、普通の一軒家であった。外装は白く、周囲と比べるとやや大きい、ごく普通の家である。果たして、商店街からまとめ買いするほどの燃料をどのように使うのか、一目みただけでは判断できない。アースは訝しみながらもインターフォンを押した。

💥「おぉっ、躊躇ないな」

🌎「怖気づいてどうする」

『ど、どなたですか……?』

 さほど間を置かず、インターフォンから声がした。気弱そうな声だ。

🌎「ワタシは燃料を求めている、アースというものだ。君が燃料を大量に購入しているという話を……商店街の人から聞いてきた。燃料をいくらか譲ってもらいたく、交渉に来た次第だ。もちろん報酬も支払うが、まずは話だけでもさせてもらいたい」

 インターフォン越しにも関わらず、アースはまくし立てた。しかし、燃料を集めている事実以外はすべて事実であり、必要な要件はすべて含まれている。しばし沈黙があった。家の主は、今の言葉をどう受け止めたのか。やがて、カチッと扉のロックが解除された。

『……燃料をお求めでしたら、お入りください。お、お連れの方もどうぞ』

 驚くべきことに、インターフォンの主は声を発していないスパークの事も察知していたようだった。

🌎「では遠慮なく」

 だが、些事とばかりにアースは乗り込んでいった。呆気に取られていたスパークだったが、すぐに友人を追って家に入っていった。


 その家の中は、外装からは想像できないほど広かった。玄関を抜けて狭い廊下を進んだ後、急に広い空間に出たのだ。居間というにはソファやテレビなど生活に必要そうなものはなく、代わりに中央には決闘テーブルがあった。すると、奥の扉が開き、新たな絵文字が現れた。この家の主であった。

🏠「よ、ようこそ……僕の名はハウス。よく来てくれたね、アース君……キヒヒ」


 ハウス……彼は家の顔文字だった。仕草からは卑屈そうな印象を受けるが、表情を読み取ることはできない。何しろ建築物なのだ。とにかく、アースは話を切り出そうとした。

🌎「なるほど。ハウス氏、早速、燃料の件だが――」

🏠「決闘しようよ、アース君……キヒッ」

 だが、ハウスの唐突の申し出によって遮られた。ハウスは続ける。

🏠「君が勝ったらいくらでも燃料をあげるよ……その代わり僕が勝ったら……フヒヒ、君が作っているという、ロケットを貰おうかな?」

🌎「な、なぜそれを……?」

 アースは驚いた。ロケットの作成は、友人にしか明かしていない秘密だったからだ。

💥「お、おいアース。本気でこの決闘受けるのか? オレが言うのもなんだが、なんだかおかしいぜ……ほら、燃料なんてまた後でも入荷するだろうし……」

🌎「いや……」

 彼は思案していた。ここまでの展開に、違和があったのだ。思えば、商店街の燃料買い占めは、いつから行われていたのだろう? 最初は自分でも半信半疑だった陰謀論のような疑いが、現実味を帯び始めている。もしここで退けば、永遠に燃料が得られない事態が起きるかもしれない。故に。

🌎「……その決闘受けてたとう」

🏠「キヒッ。やってくれると思ったよ」

 両者はテーブルに歩み寄る。

💥「お、おいアース! 大丈夫なのか?」

🌎「そう心配するな。ワタシの実力は知っているだろう」

 アースは、スーツベルトについたデッキケースから己のデッキを取り出した。仲間たちと組み上げ、戦ってきた自慢のデッキ。このエモジオで己が培ってきた全てがこの40枚の束に込められている。負ける筈がない。彼は確信していた。

 お互いのデッキを一度交換し、シャッフルする。神聖な試合前の儀式だ。そしてデッキを戻し、5枚のカードを引き――。

🌎「「衝突コンフリクト!」」🏠

 燃料を賭けた決闘が始まった。


😎 ☺ 😭


 ――後攻10ターン目。中盤から後半に差し掛かる頃。

🌎「出でよ、アース・グラビティ・ドラゴン!」

 鳴動と共に巨岩が立ち上がり、龍の姿となった。

💥「アースの切り札だ! いいぞ、アース!」

 スパークの応援を受けながら、アースは戦況を分析する。互いに伏せられた罠カードは1枚。自分の場にはたった今召喚したグラビティ・アースがいる一方で、ハウスの場にいる生物は3体。更に、「資材」という珍しいギミックが使われている。


 ハウスの場にいる生物のうちの2体、《アックス》と《ツルハ》は毎ターン資材を生み出す生物だ。低コスト、低ステータス。何度か攻撃を受けたが、大したダメージには至っていない。


 2体の生物は1ターン目に登場し、2種類の資材……《木材》と《石材》を各10個ずつ生成している。厄介だが、これまでアースには止める手立てがなかった。

 そして意味深に存在する最後の生物、《魔モノ小屋》。攻撃力を持たず、今まで一切の行動を行っていない不気味なカードだ。

🌎「鬼が出るか蛇が出るか……アース・グラビティの攻撃!」

 岩石の地龍が息を吸い込む。ブレス攻撃の前兆だ。だが、その瞬間!

🏠「待っていたよ。僕は《魔モノ小屋》の能力を発動」

 突如、魔モノ小屋が妖しく輝き始めた。


🏠「木材・石材を5つ消費して、魔モノ小屋は進化する! さあ、僕を守れ。《モンスターハウス》ッ!」

 

 瞬間。小さな小屋だった建造物は一瞬で巨大化した。窓からは無数の目が覗き、それどころかなにかの触腕や牙が至るところから生え散らかしている。異形の住居ともいうべき、恐るべき魔物であった。

🏠「キヒヒヒヒ……! モンスターハウスが場にいる限り、僕はダメージを受けない」

🌎「何!?」

 地龍から放たれた砂嵐のようなブレスを、急に立ち上がったモンスターハウスがハウスの前方に建ち、攻撃をすべて受け止めてしまった。結果、ハウスの結界障壁ポイントが受けたダメージは0である。

🌎「くっ……だが、アース・グラビティの能力で、ワタシは山札からトラップを1枚手札に加えさせてもらった」

 アースは手札を1度シャッフルし、その後カードを1枚伏せた。たとえ手札に加えたカードをそのまま伏せるとしても、その事実を相手に悟らせないテクニックである。

🌎「ターン終了だ」


 ――先行11ターン目、ハウスのターン。だが。

🏠「僕のターン。カードを引いて……キヒヒッ、トラップを1枚伏せて、僕はターン終了を宣言する」

💥「何ッ!?」

 外野のスパークは驚いた。切り札を出したというのに、なにもしない絵文字をこれまで見たことがなかったからだ。一方で、アースは冷静沈着に、戦況を分析していた。

🌎「……このままワタシのリソースが尽きるまで、鉄壁の家の中に籠り続けるつもりだな」

🏠「キヒヒッ、今ごろ気づいてももう遅いよぉ……」

 ハウスは指を鳴らした。すると、なんと四方の壁がシャッターのように開き始め、その内側にあったものが明らかになった。なんと……そこにあったのは檻であり、中にたくさんの絵文字たちが収監されていたのだ。

🐧🐣🐡🍃📺✎🌤

💥「お、おい、アイツは……!」

 言い切るより先に、スパークは檻の中に手を伸ばし、一人の絵文字の顔につけられていたガムテープを思いっきり剥がした。その絵文字は一瞬痛みに怯んだが、スパーク達の顔を見て叫んだ。

🍃「スパークくん、アースくん! なんで来ちゃったんだ!」

💥「お、オマエこそなんで捕まってんだよ。リーフ!」

 なんという事だろうか。そこに捕まっていた絵文字のうちの一人は、スパークたち3人組の1人、リーフだったのだ……!

🍃「アースくんがそろそろ燃料使うだろうなって思って、商店街をうろうろしてたらハウスくんが買い占めてるところを見つけたんだ。譲ってもらおうとしたら、突然決闘を申し込まれて……それで負けてから、ずっとここに閉じ込められてしまったんだよ!」

 事の経緯をリーフは語った。一通り話し終えた後、ハウスが言った。

🏠「リーフ君から話を聞いたんだよ。アース君、このエモジオから脱出しようとしてるんだってね。無駄無駄、そんな風に外に出ようとしちゃいけないよ。みんな閉じこもってるのが一番なんだ。僕はそれを、みんなに伝えたいだけなんだ……キヒヒッ」

💥「……狂ってやがる」

 狂気じみた哄笑が広間中に響く。捕まっている絵文字たちは思わず震えがった。アースもまた、震える手を握りしめた。恐怖ではなく、怒りからであった。

🌎「……ロケットを求めたのも、ワタシを閉じ込めたいからか?」

🏠「違うよぉ! ロケットって相当頑丈なんだろう? 宇宙でもちゃんと生活できるようにさ。僕はその頑丈な素材を、この家の補強に使おうと思うんだよ! 絶対に壊れない、外敵から身を守れる絶対の住居! 外に行くなんて無駄な事じゃない、僕は有意義に使ってあげようとしているだけなのさ」

🌎「そうか……そのモンスターハウスは、オマエそのものなんだな」

 アースの言葉を受けて、ハウスは笑みを消し、真顔になった。だが、アースは構わず続けた。

🌎「ワタシの友達を傷つけ! 更には私の夢を侮辱した。オマエに、大地のありがたみを教えてやるよ」

🏠「……ふうん。君にできるものなら、やってみるといい。悪スとツルハ死の能力!」

 ハウスは、資材のカウンターを2つずつ増やした。木材・石材それぞれ7個。

🏠「今度こそターン終了だ」

 挑発的に、ハウスはターンを終えた。


😎 ☺ 😭


 後攻12ターン目。アースはしめやかにカードを引いた。

🍃「あ、アースくんがあんなに怒ってるところはじめて見たよ」

💥「オレは1回だけ見たことあるぜ……あいつ、普段は澄ました顔してるけど、本当はだいぶ……」

 スパークが言いかけたところで、アースが新たな魔札生物を召喚した。


💥「すげぇ! もう1体のアースの切り札だ!」

🌎「これで準備は整ったな。ワタシは残るマナを使い、この呪文を唱える。《勝者はひとり》!」


 アースの場のアース・バインドが、ハウスの場のモンスターハウスに狙いを定めた。


🌎「この呪文は選ばれた二体の生物のうち、どちらかが死ぬまで戦闘し続けるようにさせる呪文だ」

🏠「なるほど、モンスターハウスを直接狙いにきたか」

🌎「それだけじゃない。ワタシはトラップ発動!」

🏠「!!」

 アースは罠カードを発動した。通常、相手の行動に対してカウンターする形で使われることが多い罠だが、実は自分の行動に対して発動することもできる。発動されたのは、《大地の消失》であった。ハウスの家の床に突如穴が開いた。


🌎「アース・バインド・ドラゴンのコスト以下の生物……ちょうどオマエの場の家と雑魚2体が該当するな。ワタシはこの効果で、モンスターハウスとツルハ死の二体を破壊する!」

💥「上手いぜ! 効果の破壊と戦闘破壊、二つを一気に迫りやがった!」

 アースの行動に、スパークは感嘆の声を漏らした。リーフも頷いた。

🍃「もし大地の消失の効果が防がれても、アース・バインドの攻撃でモンスターハウスは破壊できる! すごい、すごいよ!」

 だが、彼らの喜びを遮るように、ハウスは笑った。

🏠「残念だけど、手は打ってあるんだよねェ……トラップ発動、《耐震プロテクション》!」


 モンスターハウスの周囲を青い膜が包み込んだ。すると膜が液体のように建造物の真下に流れ、固まり、暫定的な足場を作った。効果の破壊を無効化したのだ……!

🏠「破壊を無効化したのは効果だけじゃない! このターン、モンスターハウスはダメージを受けなくなる。この僕と同じように!」

 アース・グラビティの放った重力波は、しかしモンスターハウスを破壊する事はなかった。先ほどの青い膜がまるでクッションのように衝撃をすべて吸収してしまったのだ。

🏠「キヒヒッハハハハハハ! どちらか死ぬまで攻撃するんだって? 好きなだけ試してみたらいいよ。モンスターハウスに攻撃力はないから、そっちのドラゴンを倒すことは残念ながらできないけど……ドラゴンの攻撃もモンスターハウスは無力化する。つまり無駄。何回やっても、攻撃は無駄に終わるのさ」

🌎「言ったな。では、再現してみよう」

 再びアースはアース・グラビティに攻撃指示を出す。ドラゴンは腕を床にたたきつけ、衝撃波を放つ。そして同じように、モンスターハウスはダメージを吸収してしまう。文字通り、先ほどの繰り返しであった。

🏠「さあ、まだやるかい?」

🌎「もちろん。オマエのモンスターハウスが崩れるまでな」

🏠「ハァ? 何を言って――」

 ハウスは真顔になった。自分の場の、モンスターハウスが縮んでいることに気づいたのだ。いつからだ? 攻撃を受ける前はもっと大きかった筈だ。訝しみ、ハウスはハッとした。攻撃に合わせて、もう一体の竜が……アース・クエイク・ドラゴンが振動を放っていることに気づいたのだ。


🏠「アース・クエイクとやらの能力か……!」

🌎「その通り。ワタシの生物が攻撃する度、オマエの場の生物はどんどん弱体化していく!」

 さらに、ハウスは周囲を見渡した。《大地の消失》で巻き込まれたツルハ死だけでなく、対象外だったはずの悪スまでいない。あの忌まわしいアース・クエイクの能力で、まとめて死んでいたとしたら……。

🌎「知っているか? 弱体化によって耐久力がなくなった生物は、死ぬ。これはダメージでも効果破壊でもない! ルールによる消滅だ!!」

🏠「バカな……バカな!?」

 アースはここまで読んでいたというのか。ハウスは驚愕した。そうしている合間にも、アース・グラビティとアース・クエイクの相互攻撃によりモンスターハウスがどんどん小さくなっていく。あれだけ頼もしかった我が家が、まるで蝋燭のように溶けていくようだった。

🏠「……………………トラップ発動!」

 屈辱を噛み締めながら、ハウスは新たな罠を発動した。《緊急空中外出》。

 

🏠「キヒッ……キヒヒヒヒッ! 僕だって、いざとなれば外に出れるんだ。《空中外出》の効果でモンスターハウスは弱体化するが、代わりに飛行を得る!」

 発動と同時に、モンスターハウスから1体の丸っこい魔物が飛び出した。魔物が自分の腰をポンと叩くと、背中のパラシュートが開き、空中に留まった。

🏠「オマエの能力は、飛んでいない生物限定だろう!? 地震……大地を伝う振動……まさにアースクエイク地震だ! こうやって飛んでしまえば、効果を受けることはなくなるはずだ」

🌎「……確かに、アース・クエイクの能力は地上生物限定だ。そもそも、ワタシのカードのほとんどは飛行生物に対して打つ手がない」

🏠(やはり……! 《アーチエネミーキャッスル》さえ場に出れば僕は負けなくなる……それまでしのげれば……!)

 凄まじい笑みを浮かべるハウス。だが、目の前の小型魔物の様子がおかしくなった。開いていたパラシュートが急激にしぼみ、その後叩きつけられるように地面に落下したのだ。

🌎「――だが、ワタシのアース・グラビティは、敵の飛行をすべて奪い去る。引力によって、あらゆる浮遊物を引き寄せるのだ」

 落下して、それで終わりではなかった。二体の地龍が放つ衝撃により、更に大地はひび割れ、砕け、魔物を呑みこんでいった。モンスターハウスの残骸もまた、同じく地の底、奈落に吸い寄せられるように落ちて行った。

🏠「あ、ああ……バカな。何故、そんな事が許されて……僕は……」

🌎「我々は」

 ハウスの狼狽の声をアースが遮り、言った。

🌎「我々は大地の上で暮らしている。家も、建造物もすべて大地に立っている。我々は調和して生きている。互いに助け合い、思い合い、時に競いながら、それでも大地の上で共に暮らしている」

 獲物を倒し尽くしたアース・グラビティ・ドラゴンとアース・クエイク・ドラゴンの二体が、矮小な獲物の姿を捉えた。

🌎「オマエが悪かったのは引きこもりだからではない。外に出たくないなら、出たくないなりに調和の道を探るべきだったのだ。資源を独り占めするべからず。絵文字に迷惑をかけるべからず。そして――」

🏠「アア、アアアアッ……」

🌎「大地のありがたみを、知るがいい」

 ドラゴンのブレスが、閉じこもる家をなくしたハウスの結界障壁ポイントと一瞬で壊しせしめた。同時に、ポイントと連動していた檻のロックが解除され、絵文字たちが一斉に解除された。解放された友人と、勝者たちは肩を抱き合い、笑った。


💥 🌎 🍃


💥「なあ、ほんとに燃料それだけで良かったのか?」

 帰り道。三人は両手にいっぱいの燃料を抱えていた。それでも、ハウスが買い占めていた燃料の総数に比べれば微々たる量であった。

🌎「必要分だけ手に入ればワタシは問題ない。牛耳れば、それこそハウスと同じになってしまうからな」

 リーフ以外に捕まっていた絵文字たちもみな、それぞれの事情で燃料を必要とする者たちだった。決闘のあと、アースは彼らに燃料を配り、それでも余った分は商店街に戻させた。僅かに燃料をハウスに残したのは、彼の情けである。

🍃「それにしても……ハウスくんが燃料を買い占めてた理由が、ずっと暖房をつけ続けるためだった……ってのはビックリだよね」

💥「ったく、一生温め続けてもあれだけの量は使わねえだろ」

 しかし、暖房を持続させたい気持ちは三人も分からないでもなかった。このところ、エモジオの気温は少し寒くなっているのだ。昼はまだマシだが、夜になると途端に冷え込みが強くなる。これまではそこまで冷えることはなかったのだが……。

🍃「で、でも! ようやくアースくんのロケットが飛ぶね」

 リーフは強引に話題を変えた。

🌎「そうだ。これでワタシはロケットで飛んでいける。……上手く飛ぶかな」

🍃「アースくんなら飛べるよ! ね?」

💥「ああ! ……まあ、しばらくデッキの調整相手がいなくなっちまうかな」

🍃「さ、寂しくなるね」

🌎「……そうだな」

 アースは考えていた。燃料が手に入った以上、もうすぐエモジオを発たなければならない。外に行きたい気持ちは変わらずあるが、スパークやリーフとしばし別れることは、寂しくもあるのだと、しみじみと実感していた。

 せめてエモジオにいる間に、できることをしておきたい。もしかしたら、これが最後の機会になるかもしれないのだから。

🌎「なあ……スパーク。二人とも」

💥「ん?」

🍃「どうしたの、アースくん」

🌎「……今度、決闘しよう。時間がある限り……」

 エモジオを発つ前の最後の決闘を。アースは、心から望んでいた。


コリジョン・スパーク:アース・バインド】 完

スキル:浪費癖搭載につき、万年金欠です。 サポートいただいたお金は主に最低限度のタノシイ生活のために使います。