新刊発行部数の謎

 なんとなく、総務省統計局が公開している(た?)「書籍・雑誌の発行部数,実売金額(昭和20年〜平成17年)」(こちら)を見た。元データは出版ニュース社の『出版年鑑』。グラフ化すると、出版部数の変化が一目瞭然だ。

書籍の新刊点数
(1945年~2005年)

 1945年の新刊点数(書籍)は658冊。その3年後の1948年はおよそ40倍に膨れ上がり、26,063冊。単純計算で、1日あたり約71冊刊行されていることになる。次に26,000冊を超すのは23年後の1978年だから、これは妙である。なぜ、1948年に冊数が跳ね上がったのか。

 国会図書館リサーチ・ナビに「出版業に関する基礎的知識を得るための資料」というページがある。「業界史・展望」欄に、能勢仁・八木壮一『昭和の出版が歩んだ道 : 激動の昭和へTime TRaVEL』(出版メディアパル、2013)があげられていたので、Amazonで購入した。

 届いた本を開くと、『日本出版百年史年表』(日本書籍出版協会、1968)のデータが紹介されていた(p.19)。それによると1948年は26,063冊で据え置きだが、1945年は878冊で、データに揺れがある。だが総務省では見られない戦前のデータが紹介されており、興味深い。
 つぎのページを開くと、答えが書いてあった。1945年時点で出版社は300社だったのが、翌年には4,000社以上と13倍以上になっている。これは戦争に参加させられていた出版人がこぞって執筆・出版をしたからで、1948年には4,581社と、史上最高になったらしい。1949年に減っているのは、規制とかではなく、単にビジネス上の不調であるようだ(p.20)。

 外連味をきかせるために統計資料を用いよう。念のために言っておくと、筆者は統計についてはズブの素人である。

消費支出の総数と教養娯楽費
(1946年~1962年)

 ほかの調査、「1世帯当たり年平均1か月間の消費支出(全世帯)-全都市(昭和21年~37年)」(こちら)を見ると、あたりまえのことだが、消費支出の総数と教養娯楽費に、きれいな相関関係があることが分かる。

消費支出の総数と新刊点数(1946年~1962年)

 能勢・八木(2013)を踏まえて考えれば、国民の消費支出(需要)と供給のバランスが悪すぎたのが、1949年以降の新刊点数の減少である(ここでは、円の価値の増減は考えていないので、本来ならそれを踏まえた考察が望まれるだろう)。

 実際に知りたかったのは、なぜ1946年でも1947年でもなく1948年だったのかということだったのだが、規制などの記述も特にないので、戦争による人的・物的被害が落ちついたのが1948年ごろなのではないかと推測する。

 要するに人間の気合の賜物という結論であるが、それだけに、こうした高潮を踏まえてこの時期の文章を読んでみると面白いかもしれない。