ターンアンデッドしか使えない 第三話

「転生者ハロ、そちらはどうなった? こっちは大変だぞ! 『伏死殿』そのものがダンジョンの各フロアを合体変形させて、巨大人型ゴーレムとなってまで、首魁を求めて襲ってきているぞ!」
「はああああああああああああ!??」

 戦っているT・モンク師匠の言葉を聞いて、もう一回同じテンションの驚きを全員でした。
 夜の街を闊歩する巨大ロボみたいなゴーレム、これが『伏死殿』の変形した姿らしい。

「おおおおおおおばあさんおばあさんおばあさんおばあさん」
「その声! ギュルギュル回ってるのはもしかして、お嬢ちゃんなのかい?」
「わたわたわたわたしが売った呪具ってありますますますます???」
「それならアンデッドを倒すためにレンタルしたよ! そこの男に!」
「いいいいいい一旦返してもらっていいですか? おおおおおおオジオジオジオジさま、その呪具の魔力がひつひつ必要で」
「なんだァこのギュルギュル回ってるやつ! 昼間のドスケベねーちゃんの声で近づいてくるぞ!」

 ナンパしてきたオッサンだ! グレンダンがおばあさんに売った呪具で、アンデッドと戦ってる!
 緊急時にみんな働いててえらい。

「このじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐっ……っでイキます! ハロハロハロハロくん!!! もっともっともっともっと私にかけてえっ!!」
「なんかセリフがドスケベだな……」

 オッサンが反応してるけど、これはターンアンデッドをかけてと言う意味だからね? 僕もちょっと「エッロ」って声に出たけどね?

「いやふざけてる場合じゃない! ターンアンデッドターンアンデッドターンアンデッドターンアンデッドターンアンデッド!!!」
「目が回るううううううううううううううう」

 情けない声と反比例するようにトルネードか何かみたいな風圧すらともなって、宙を舞った超回転グレンダンドリルキックが『伏死殿』巨大ゴーレムの眉間に炸裂。
 そのままゴーレムの顔といい腕といい腹といい足といいあちこちを突き抜けて撃ち抜いて、可動部をことごとく打ち砕かれて。動きが止まった!
 ということで夜の街の中央に、元『伏死殿』の巨大ダンジョンゴーレムロボが、ズシンと立ちすくむことになった。

「はぁ~~~~~……。倒せました!」

 いや「倒せました」じゃない!
 回転を終えたグレンダンが無傷で僕達の前に戻ってきた!? なんだよこれ超展開と言うか超回転と言うか!?
 グレンダンは無傷だったが、目が回って千鳥足になって倒れ込んできたので、「はわわわわ」って言いながら僕の顔に胸がポヨンと当たった。

「た、ただいまハロくん!」
「お、おかえり」

 涙のお別れをしたはずなのに、グルっと回って大団円っぽくなった、僕とグレンダン。ついさっきまで号泣していた気まずさと、ドリルバトルの高揚感と、何よりグレンダンが無事だったことが、胸でないまぜになって。
 微妙な空気のまま、「ただいま」「おかえり」を小声で繰り返しちゃった。なんか新婚さんとかみたいだ。
 そんな僕たちの周りから、街の人々の拍手がまばらに起き始めた。「ゴーレムを倒して街を救った英雄だ!」と歓声が巻き上がる。先導しているのは例のナンパおじさんだった。
 実はその拍手の間も、グレンダンの胸が僕の顔にポヨンポヨン当たったままだったので、スタンディングオネショタドスケベーションだ。スタンディングオネショタドスケベーションって何?

「カラカラカラカラ……」
「ん……? 拍手の間になんか変な音鳴ってない?」

 鳴ってる。パチパチの間にカラカラ鳴ってる。僕の空耳じゃない。だってその辺で骨が寄り集まって、カラカラ鳴ってる。音の出どころは人骨だった。
 グレンダンがドリル美脚で削り倒したアンデッドの骨が、寄り集まって人の形を形成していく。

「まさか、アンデッドが再生してる!? まだ敵がいるってことか……!」
「ボーンズ副長?」

 緊迫して骨に向かい合う僕とは対象的に、グレンダンは拍子抜けした声で言う。
 寄り集まって人型を形成しようとした骨が再度散らばり、地面に骨文字で「YES」と描いてみせた。

「あ、大丈夫ですよハロくん! これは私がいた聖騎士団の、ボーンズ副長です」
「全員アンデッドにされたっていう、あの?」
「魔道士の呪縛に囚われて、『伏死殿』とともに街を襲ってたみたいですね。ふんふん、なるほどなるほど……」

 カラカラと音を鳴らしながら、再び骨文字でメッセージが床に描かれる。
 骨の総数の関係で長文を作るのは大変そうだったけど、グレンダンとのQ&Aの結果、どうやらこの骨は……。

「ハロくんのターンアンデッドで回転した私に蹴り壊されたことで、浄化して魔道士の呪縛から解き放たれたみたいです!」
「僕のターンアンデッドとグレンダンのドリルの組み合わせでそんなことになるの!?」
「ボーンズ副長は、聖騎士団長だった私のサポートに回りたいそうですよ?」
「だとすればやはり、我が退魔の拳も今は、振るうべき時ではないな……」
「わあ師匠!」

 話に割り込んできたのは、僕にターンアンデッドを教えてくれた眼帯の巨漢の修道士、T・モンク師匠だ。

「滅ぼされたはずのアンデッドが、『伏死殿』のコアであった彼女に力を貸している。そして転生者ハロはその彼女を支配下に置いている」
「支配下とか……そ、そこまでじゃないですよ?」

 軽く反論する僕。そんな僕の腕をグレンダンがぎゅっと引き寄せる。支配欲そっちのほうがありそう。僕、逆らえなさそう。

「アンデッドの首魁たるグレンダンよ。ここで君を祓うのは得策ではなさそうだ。我が拳ではその魔力に及ばぬと言う事実もある。転生者ハロとともに、しばしの休息を楽しむがいい」

 そう言ってT・モンク師匠は、武者修行の旅に出かけてしまった。
 ――翌日。
 日の出ているうちに僕たちは、ダンジョンゴーレムの被害にあった街の復興に手を付けた。
 と言っても僕に出来ることと言えば、グレンダンにターンアンデッドをかけることでドリル掘削し、壊れた家の瓦礫などを撤去するぐらい。
 それと、ゴーレムの中身が安全なのかどうか、中にいるモンスターがまだ襲ってくるのかどうかの偵察にも行ってみた。
 初めてこのダンジョンに挑んだ時は、何も出来ずに逃げ帰ってきた僕。でも今は違う、隣にグレンダンがいる。
 互いに見つめ合う。静かにうなずき合う。

「かけてえっ! もっとかけてえっ!! 回してえっ!!」

 グレンダンのひときわ色っぽい声に悶々としながら、僕はターン・アンデッドをぶっかけた。
 おかげで出てくるモンスターも次々に倒せてしまい、ドリルで貫かれたアンデッドたちは聖騎士団の頃の記憶を取り戻して、続々と仲間になっていく。
 『伏死殿』にこもった魔力で生み出された呪具たちも、いくつかゲット。荷物持ちはスケルトンのボーンズ副長がやってくれるので、ダンジョンアタックが楽すぎる!

「ただいまー♪」

 楽しそうにグレンダンが僕の手を引いて帰ってくるのは、例の宿屋だ。
 グレンダンがまたもや夜な夜なえっちぃボイスで喘ぎながら呪具を解呪し、その品を宿屋のおばあさんに買い取ってもらって……。
 転生した時に言われた「流れに身を任せよ」の言葉に従っている間に、チート級のドリル攻撃と、増えていくアンデッド軍団と、冒険とお宝と、ドスケベおねえさんグレンダンとの暮らしが全部手に入ってるよ?
 ターンアンデッドしか使えないのに!

「今日もお疲れ様でした、ハロくん。ゆっくり休んでくださいね」
「ちょっ……どうしてこっちのベッドに来るの、グレンダン?」
「……ダメ……?」
「……ダ、ダメ! 自分のベッドに、ターン!!」

 言われるがまま、「ざんねーん」と個別のベッドにターンしていくグレンダン。
 だって僕は聖職者で! グレンダンはアンデッドなわけだし……?
 いやでも、これだけ近い距離感でいるし、街のみんなからも祝福されてるし、別にいいのかな……?
 何より生死を扱う屍人使いネクロマンサーの、性的パッシブドスケベと宿をともにしている僕が限界というのもある。おかげで頻繁にトイレに行ってる。
 うーん……やっぱダメ! 何よりも僕がダメになりそうだから!
 こんなに恵まれた生活を送って、そこまで迷わず受け入れちゃったら、ダメだ! 少なくても今は!
 ……いつになったらいいのかな? うーんと、何かしら異世界転生勇者的な活躍を僕が出来たら、とか? そんな日、来るのかな?
 今の恵まれたスローライフを続けられてれば、充分幸せでもあるし……。

* * *

 これは街の外。主人公ハロたちとは別の視点の物語。
 『伏死殿』が自ら立ち上がってゴーレムとなり、街を襲ったことは、当然広く知られる大事件となった。
 動かなくなった『伏死殿』に危険はないのか? そもそも『伏死殿』を誰が一体どんな力で止めたのか?
 その上『伏死殿』の周辺には、新たなアンデッドの軍団が集まり始めているという噂もある。
 国王の命を受け、調査のために派遣された勇者がいた。
 守護の最大祝福を受けた女勇者は、まだ年端も行かぬ少女のような姿をしている。魔力を高めるための服装は当然、目のやり場に困りそうなほどドスケベ。
 そんな姿で街道を行く女勇者、対峙する屈強な大男。

「我は今、武者修行中の身の上。手合わせ願おう」
「いいですけどよ、アタシの鉄面乙女ジャック・オー・バージンは突破できねえよ?」

 女勇者が防護マスクを被ると、何重もの祝福障壁が圧となって、眼帯の修道士モンクに襲いかかる。

「これはッ……! アンデッドの首魁の硬度に等しき圧ッ……!!」
「おやあ? 放浪の修道士モンクさん? アタシの標的をご存知ですかよ?」

 鉄面乙女ジャック・オー・バージンを名乗ったマスクでのヘッドバットで、T・モンクは弾き飛ばされた。
 頭部最強装備の女勇者、ハロとグレンダンを求めて、街へと進む!

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