見出し画像

個人図書館 5

5

「美奈子さんのアパートにはどんな本があるの?」
 橋本弥生さんの家で珈琲を飲みながら、私はそんな質問をしました。

 中川美奈子さんは「柄澤さんや弥生の所ほどたくさんの本は無いし、私の持っている本は偏ってるから」と、小さな声で答えました。
 自信家の美奈子さんらしくない答えだったのです。

 「偏ってるって、どんなに?」
 私は興味があったので、さらなる質問を浴びせました。
 美奈子さんは困った表情をして押し黙りました。
 「みんなで訪問しましょうよ」
 弥生さんが言います。
 「えー?」 美奈子さんは嫌そうな顔になりました。
 「本当にちょっとしか本無いし、偏っているから」
 美奈子さんは頑なに拒否をするのです。
「別にいいじゃない。ただ美奈子のアパートに遊びに行くっていうことで」
 弥生さんが穏やかに言い諭そうとします。
 「そうだよ。弥生さんのこの蔵書を見たら誰だって物怖じするよ。そんなの気にすること無い」
「柄澤さんの蔵書だって結構すごいけど」
 「ははは」

 そんな感じで、私たちは美奈子さんのアパートを訪問することになりました。

 私と弥生さんは、美奈子さんの本棚を見て、驚きました。
 「確かに、偏ってるね」
 「うん、この偏り方はすごいよ」
 美奈子さんの本棚にあったのは、村上春樹と狗飼恭子の本がすべてでした。
 その揃い方は徹底していて、彼らの著書が全部そろっていたのです。

 「私、本当に気に入ったものしか買わないから」
 美奈子さんは照れくさそうに呟きます。

 しかしなぜ、村上春樹と狗飼恭子なのでしょうか。
 私は狗飼恭子の「薔薇の花の下」を読みました。
 私はたちまち狗飼恭子のファンになってしまいました。

この偏りに、はまりました。


つづく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?