見出し画像

「難産でした(笑)」というラインがじわじわ泣けた話

 未婚で子供もいないわたしの一昨年(2019年)のある日の日記。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 昨日、妊娠中の友達が気になって
「臨月だね。」
ってラインしたら
「産まれました。」
って、きれいな赤ちゃんの写真が返ってきた。
「おめでとう!安産だった?」
って聞いたら
「難産でした(笑)」
だって。いや笑い事ではない。なんでも緊急帝王切開で大変だったらしい。

「緊急帝王切開で大変だった」
 この言葉をわたしは今までの33年間に何度か耳にした。でも想像力が追い付かないから、全く現実味のない情報としてインプットしていた。

 友達のカオルは高校の同級生だ。当時は、とにかくうるさい男勝りな、行動はバカなのに頭は良いというJKと呼ぶにはあまりに色気のない子だった。わたしはそんなカオルが大好きで一緒に大笑いした思い出が本当に多い。

 そのカオルのお腹が切られた。カオルは子供ができるのを待ち望んでいたし、別に切ったお医者さんが悪いわけではないし、帝王切開しなきゃ母子共に危険だったわけだろうし、自然分娩できたとしたって日常生活から見たら大怪我なわけだし、つまりしようがない事なのだ。とりわけ特別な事件でもないのだろう、一般的には。
 それでもカオルのお腹が昨日鋭い刃物でパックリ切られたんだという事実が、なぜかいまさらひどく鮮明にショックだった。カオルの血が流れてそこから子供が出てきたんだ。それは現実に起こったことなんだ。そう思ったら泣けてきた。よくわからない感情で泣けてきた。泣けたところで、まだわたしの想像力なんて実際に経験したカオルの心身の傷みと感動を理解するまでには絶対届かないのだけど。

 帝王切開じゃなくても子供は、わたしの愛する友達の体をブチ破って、文字通りブチ破って出てきて大怪我させた上で、わたしより友達から愛されるのだ。なんて存在なんだ。
 子供にも人権があって思想信条の自由がある。そんなのわかってたってわたしはカオルの子供に、カオルを幸せにする事を強制したくなる。そんでもってカオルの子がなにがなんでも幸せになってくれなきゃ、ここまでしたカオルの苦労が報われないから絶対に幸せになってほしいと思う。

 こんなことを、母親を自分の手で幸せにしようなんて特に思っていないわたしが言ってる。33年前にぶち破った側の人間が偉そうに。
 わたしがこんなに性格悪く育つとわかっていたら、母親の友達はわたしに母親の苦労を説教した方がよかったんじゃないかなんて思う。
「わたしの大事な友達を傷物にしてまで産まれたんだから、母親を大事にしなかったら怒るよ!そこまでして産まれたんだから、絶対に幸せになって力一杯生きないとお母さんが損だし、わたしはそんなの許せないよ!」
と。
 悪魔のような子供のわたしはきっと、「別に産んでほしいって頼んだわけじゃないし。うざいババアだな。」なんて思うんだろうけどさ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?