2024/08/26 夏の風物詩

 身体を一刀両断するかの様に引かれた肌色のスリット。ついつい目で追ってしまうのは下心からでも、「最近の若者は…」と説教を垂れるためでもない。ただただ純粋に僕は怯み、驚いているのだ。

 外へ1歩出れば強烈な陽射しが肌を突き刺し、まとわりつく湿度に不快感を覚える。"記録的な暑さ"がたたき出す最高気温は毎年更新。夏の暑さに平気な顔をしていられなくなったのは、僕が歳を取ったせいだけでないようだ。暑さに合わせて夏の過ごし方にも変化が表れ、今更うちわや扇子の代わりに携帯扇風機を持つ人の姿を見かけても驚きはしない。
 しかし、お臍を出して歩く姿は別だ。人が人としてこの世に産み落とされた"生"を象徴するそれは、まさに年輪。その人の親、祖父母、子供時代、たくさんの人に祝福されて生まれてきた瞬間、あらゆる物語を想像させられてしまう。「この紋所が目に入らぬか」と格さんによって印籠を突き付けられた悪人のごとく、ひれ伏してしまう。「私だって人間なんです」という切羽詰まったひと言を聞く以上に、ハッとさせられる何かがお臍にはある。その生々しさに僕は怯んでしまうのだ。

 誰かに憤りを覚えたとき、誰かを憎んでしまいそうなとき、その人のお臍を想像してみるといいのかもしれない。理不尽な上司も、生意気な部下も、態度の悪い店員も、横柄な客も、みんな生きている。みんな人間。そう思う事で誰にでもやさしくなれたらいいな。

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