DCF

Discounted Cash Flow ---言わずと知れた企業価値や資産の評価手法であり、ファイナンス関係の仕事に従事されている方にとっては空気のような存在で何を今さら?と言われそうだが、減損やのれんなどの見積会計でも使う出番の多いロジック基盤(ものの考え方)だ。具体的な理論や計算方法、メリット・デメリットについては専門書やWEB記事があるので割愛するが、実務上、使い勝手がよく、事業部門・管理部門を問わず投資判断やレビュー時のたたき台になる。

ソフトウェアやのれん、投資有価証券がBSにそこそこある(減損したときのインパクトが小さくない)と会計監査で減損テストを慎重に見られる。既に実行した投資に対する回収可能性を吟味する。このとき会計士との議論(監査資料の提出やヒアリングによる調書など)は、DCFをベースに説明できると着地が早い。会計基準がそう定めていることもあるが、彼らはコストアプローチ(時価転売)やマーケットアプローチ(マルチプル)よりインカムアプローチのDCFを好む傾向がある。切れ味がいいのだ。他のアプローチには「売却しないのに売る仮定はちょっと・・・」とか「類似とはいえ他社だから…」と否定はしないがどこか乗り切れない空気が漂う。

事業や設備を取得したり資本出資するとき、売り手と買い手で取引価額を合意するが、価額算定のロジックまで合意しているとは限らない。交渉過程でそれそれの考え方を主張し合い妥結する手順はあっても契約書に盛り込むかどうかは別だ。フェアバリューとは言うものの、売り手とって割高、買い手にとって割安との思惑があっても取引は成立する。それぞれの会社で経済合理的な判断がされていれば問題ない。

①事業計画(将来CF)、②割引率、③算定期間(永続価値の認否)といったパラメーターによって算定結果が違ってくる。恣意性を持ち込むことができてしまう弱点であるが、各パラメーターの妥当性を検討できる点は優れている。投資リスクをどのパラメーターにどのように織り込ませたかも見える化できる。

不確実性理論の教授にして理数系トレーダーのナシーム・ニコラス・タレブ氏が書いた「まぐれ(ダイヤモンド社 2008年)」の叙述を思い出す。著者はシミュレーションの過程が分かるモンテカルロ法に熱中した。結果だけでなくそこに至る過程が分かるため深く考える道具になるのいいと。DCFもスプレッドシードでキャッシュフローの出方やパラメーターの影響が見える。ゴール(投資回収)に至るストーリーがある。

恣意性を排除(客観性を担保)するため複数のアプローチで出した値を平均した算定書をもらったことがある。どの方法で出しても近い数字であれば平均をとることでより「正解」に近づくと考えられるが、バラつきがあるときはどうだろうか。平均することによって、どれもそれなりに正しい値のバラつきが収束され、より確からしさが増すといった理解はし難い。そこまでやると最終的に得られた値に理性という魂がなくなってしまう。

第三者の専門家に理論的な方法で算定してもらったから客観的で正しいと妄信するのもキケンだ。第三者に発注するのであれば、そこに金銭取引が発生している。発注者の立場を尊重する利益相反の恐れもある。しかし当事者がやるよりは中立的(弁護士法や会計士法に縛られている)で、結論に至るプロセスやロジックが明文化されトレースも可能になる。近い将来AIによる価値算定が一般的になったとしても、見える化や理性が伝わってこないと、使い勝手はイマイチかもしれない。

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