石川 修

上場企業でコーポレート部門の仕事に長く携わってきました。 IR(投資家向け広報)は、当…

石川 修

上場企業でコーポレート部門の仕事に長く携わってきました。 IR(投資家向け広報)は、当職のビジネスマンとしての基礎になっています。 IR、経理、財務、内部統制、法務、人事、経営企画に関わる所感を綴ります。

最近の記事

比較可能性

会計処理方法(たとえば固定資産の償却やセグメント情報の区分など)の変更は安易にできるものではない。経理パーソンであれば「継続性の原則」を乗り越えるだけの強い合理性---より適切に財務諸表に表現できるーーーがあるかと悩むはずだ。とはいえ「継続性の原則」を金科玉条のごとく振り回して変更しない方向に持って行ってはいけない。より適切に表現できるのであれば、自社の経営及び投資者に資するのであるから、遡及修正の手間を惜しまず変更に踏み切るべきだ。もちろん上層部は、その労に評価をもって報い

    • LTVを巡る冒険

      LTV>CPAを説く2020年1月17日付けの記事がVCのサイトに掲載されていて少々驚いた。LTVはLife Time Valueの略、CPAはCost Per Acquisitionの略で、それぞれ「1人のユーザーから得る生涯収益」「広告等によってユーザーを獲得する費用単価」として使われるビジネス用語だ。古くて新しい永遠のテーマなのだと再認識した。課金サービス(今風に言えばSaaSモデルあるいはサブスク)のユーザーを獲得するために広告費用を投じるとき、LTVが上限になること

      • DCF

        Discounted Cash Flow ---言わずと知れた企業価値や資産の評価手法であり、ファイナンス関係の仕事に従事されている方にとっては空気のような存在で何を今さら?と言われそうだが、減損やのれんなどの見積会計でも使う出番の多いロジック基盤(ものの考え方)だ。具体的な理論や計算方法、メリット・デメリットについては専門書やWEB記事があるので割愛するが、実務上、使い勝手がよく、事業部門・管理部門を問わず投資判断やレビュー時のたたき台になる。 ソフトウェアやのれん、投資

        • マイクロキャップ

          起業を促すムードが定着してきた。ややもすればファッションのように賛美する空気さえある。それなりの母数があれば、その中からユニコーンが生まれることを期待できるという理屈もあるだろう。VCのビジネスモデルは投資先のいくつかがIPOを果たすことだ。すべての投資先の成功を願ってはいても前提とはしてない。愚かな考えではなく、やる気に敬意をと題したTechCrunchの記事はその厳しい現実を敬意とともに伝えている。ジャーナリズムの良識が健在であることを嬉しく思う。「我々のレポートの大部分

        比較可能性

          説明責任

          南極観測隊の日々を綴った南極で心臓の音は聞こえるか(山田恭平/光文社新書)を楽しく読んだ。意外な収穫があった。地球温暖化問題について日本政府やメディアの報道に不足している説明があった。温暖化して困るのは地球や自然じゃなくて人間と言い切っている。温暖化した環境で人類の暮らしを維持するには莫大な金がかかる。少しの投資で温暖化の被害を軽く留めなければいけない。地球の歴史では暑くなったり、凍ってしまうことは日常茶飯事。氷期と間氷期を繰り返している。今は間氷期だ。恐竜時代は今より暑く二

          効果測定

          目的よって何を測るかは違ってくるが、容易に定量的な測定が可能なものを挙げてみる。①株価、②出来高、③売買代金、④株主数、⑤アクセス数(PV/セッション/ユーザー/いいね/フォロー)、⑥問い合わせ数、⑦取材件数、⑧アナリストレポート数、⑨メディア掲載数、⑩説明会への出席者数、⑪アンケート、⑫表彰・ランキング・・・これらはIR活動のパフォーマンスとしてトラックしている会社も多いと思う。 Yahoo!ファイナンスの掲示板への投稿数をカウントしていたことがある。経済学者のケインズは

          売り推奨

          株主にキャピタルゲインを得てほしいと思うものの、発行体が株価水準について言及するのは抵抗がある。「企業価値を高める」くらいのコメントであれば無難だ。株価レーティングはアナリストの領分になる。しかし全ての上場銘柄を証券アナリストがカバレッジしている訳ではない。ひとりのアナリストがレポートを出している銘柄もあるし、複数アナリストがセクターを横断的にカバーする場合はいくつものレポートが並ぶ。レポートが一つもない銘柄もある。もちろん発行体としてはレポートがないのは淋しい。 カバレッ

          承認権限

          俺が責任をとる!・・・もっと良い言い方はないものか。意思決定フローにおける責任とは何を意味するのか。①失敗したときに叱られる、②失敗して損失が出たら補填する、③成功する確信がある、④リスク(不確実性)を許容する、⑤失敗しても詰めない・・・ほかにもいろいろありそうだ。①は当然だとして、②の金銭負担はサラリーマンができるものではない、③の確信を得たからこそ承認するというのが最もしっくりくる、④もやってみなければ分からない(これ以上、考えても分からない)、勝算がある場合の判断として

          承認権限

          セグメント情報

          財務諸表本表(BS、PL、CF、SS)と不可分一体(本表+注記=財務諸表)とされる注記の中で、セグメント情報の注目度はバツグンだ。総合商社のように事業規模が大きく多角化している会社は、子会社展開を含め、複数事業を営んでいるのでセグメント情報の注記(開示)はなくてはならない。しかし、まだ事業規模がコンパクトなベンチャー企業や、「選択と集中」戦略で事業領域を絞っている会社は、セグメント開示が必要かどうか迷う場合があるのではないか。 いわゆる単一セグメント(以下「単セグ」)の是非

          セグメント情報

          KPI

          アルファベット3文字は書くときも話すときもシンプルで使いやすい。しかし略す前の単語の意味が薄れて曖昧な使い方をしてしまうことに注意したい。Key Performance Indicator(KPI)は言葉どおりKeyとなる指標のことだ。Keyでない指標もある。すべての指標がKPIではない。 人事考課の目標設定でも客観的な評価のため数値目標を定めるのがよいとされているが、しばしば数字で計測できることを目標にするといった本末転倒なことが起きる。経理で言えば、仕訳数を削減する目標

          先行投資

          「広告宣伝などの先行投資により赤字が続く・・・」このような表現はもはや市民権を得たと言ってよい。何が何に先行するのだろうか。設備投資であればキャッシュアウト(支出)が将来の収益獲得に先行するのはフツーのことだ。わざわざ先行と付ける必要はない。それに設備投資は資産として計上するので、取得年度の減価償却費を除いて当期のPLにヒットしない。そもそも期間損益を適正に表現するために償却という会計処理が発明された。PLにヒットするのは当期に計上すべき費用にほかならない。そう、費用が収益に

          株主優待

          株主優待を導入している企業は1,500社超ある。全上場会社の約4割に当たる。株主優待の問題点を指摘する声は少なくない。私は優待制度を導入して株主数を増やすことに成功した経験もあり、今ここで優待制度の賛否を主張をするつもりはないが、懸念点を理解しておくことは、株式周りの仕事をする上でよい勉強(トレーニング)になると思う。 1)優待制度は配当と違って株数に比例しないため「株主平等の原則」に反する恐れがある。保有する株数をレンジ(範囲、幅)で区切って優待の“厚さ”を変えているケー

          株主優待

          安定株主

          株主アンケートで「長期保有方針かどうか」を尋ねたり、逆にIR活動のアンケートで「安定(ファン)株主づくり」といった選択肢があったりする。どちら経営陣のシンパとなる存在だ。株主と経営者が反目していてはうまくいかないだろう。取引先や従業員も顧客も不安が募るばかりだ。 株式取引に十分な流動性がある銘柄の場合は、安定株主が増えても困ることはないが(但し「持合い」は別問題)、中小型株の中には流動性が限られる銘柄もあり、「安定」が過度に進むとさらに流動性が乏しくなってしまわないか心配に

          経営指標と投資指標

          IR担当者として投資指標(PERやPBS等)についてのコメントはしない、もしくは控えることにしていたと思う。若いころ上司やIR支援会社からそのような助言があった記憶がある。経営指標(粗利率、OPマージン、ROA、ROE、Equity Ratio等)は、経営として意識しているものについて公式回答を用意し、意識していない指標については財経パーソンとして良識的なコメントで済ませていた。EPSや配当金、ROEは投資指標且つ経営指標でもあるので、投資家とのデスカッションの触媒となる指標

          経営指標と投資指標

          IRの実務書

          IRに関する実務書をamazonで検索してもあまり出てこない。会計の実務書とは対照的だ。そんな状況の中で、機関投資家が投資先企業のことをどのように考えているかを知ることができる良書を紹介したい。 中小型投信を運用するファンドマネジャーが書いた「ずば抜けた結果の投資のプロだけが気づいていること(苦瓜達郎 著/幻冬舎新書)」は発行体に対する敬意や愛情を感じる一冊だ。私も2度ほど苦瓜氏と1on1ミーティングをする機会があったことを覚えている。会社四季報を片手に会議室に現れたのが何故

          IRの実務書

          パッシブ運用

          ・・・前投稿の続き。 2020年9月28日の日経新聞のコラム記事「バリュー投資は生きている」にあったようにパッシブ運用が優勢だ。一年近く前になるが、大和総研のレポート「資産運用のパッシブ化」で、①公募投信に占めるパッシブ型の比率が純資産残高ベースで77%にもなること、②米国では大型株に投資するパッシブ型の運用額がアクティブ型を上回ったこと、③運用成績はパッシブ型がアクティブ型より優れていると実証されたこと、④国の年金運用機関が優秀なアクティブ運用機関を見つけるのは難しいと考え

          パッシブ運用