先行投資

広告宣伝などの先行投資により赤字が続く・・・」このような表現はもはや市民権を得たと言ってよい。何が何に先行するのだろうか。設備投資であればキャッシュアウト(支出)が将来の収益獲得に先行するのはフツーのことだ。わざわざ先行と付ける必要はない。それに設備投資は資産として計上するので、取得年度の減価償却費を除いて当期のPLにヒットしない。そもそも期間損益を適正に表現するために償却という会計処理が発明された。PLにヒットするのは当期に計上すべき費用にほかならない。そう、費用が収益に先行する・・・だから減益や赤字の要因になる/なったと言いたいのだ。

伝統的な経理パーソンの感覚では投資=資産なので、先行「投資」費用と言っていた。会計用語ではなく造語だ。資産の香りがする。減益/赤字とセットで使われる。増収を確認しておきたい。資産性---将来の収益獲得あるいは費用削減が確実視されることが要件---がないからPLを通す訳で、将来の収益につながる!と強弁(正当化)するのは、ホントは減益/赤字ではない(会計ルールに不満)と反発しているようで言い訳がましい。こんな意地悪な指摘が社内外(経理部長や経済記者・アナリスト)から入ることもあった。しかしサブスク型(ストック型)のビジネスモデルでは短期の減益や赤字は織り込み済みの経営計画(Jカーブ)であり、果敢な広告投下を行い中長期で成功を収めた例がある。そのようなサクセスストーリーは人々の印象に残る。

Management Discussion and Analysis(以下「MD&A」)---訳すと「経営者による財政状態及び経営成績の検討と分析」---は非財務情報の一部で、決算短信や有価証券報告書、会社法の事業報告で決算報告を文章で表したものだ。財務諸表の数字について、そうなった理由や背景などを伝える。客観的に書けと教えられるが、会社なりの立場や見解が滲む。減益や赤字決算の場合、胸を張っての発表はしづらいものだ。経営として最善を尽くしたが図らずもそうなってしまったやむを得ない事情を語ることもあるが、「先行投資」と言えば、一気にポジティブなニュアンスが伴うから不思議だ。MD&Aの文章作成には気を遣う。経理パーソンとしての保守的な資質からホントに収益が伴うかどうかの吟味に悩む。一方、記者はどうだろう。MD&Aの論調に乗せられて単なる減益や赤字を美化してしまうリスクは感じていないのだろうか。オオカミ少年にならないためには次期以降に結果を出すしかない。


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