株主優待

株主優待を導入している企業は1,500社超ある。全上場会社の約4割に当たる。株主優待の問題点を指摘する声は少なくない。私は優待制度を導入して株主数を増やすことに成功した経験もあり、今ここで優待制度の賛否を主張をするつもりはないが、懸念点を理解しておくことは、株式周りの仕事をする上でよい勉強(トレーニング)になると思う。

1)優待制度は配当と違って株数に比例しないため「株主平等の原則」に反する恐れがある。保有する株数をレンジ(範囲、幅)で区切って優待の“厚さ”を変えているケースをよく見かける。たとえば1~9単元(100~900株)を保有する株主(以下「ホルダー」という)にはQuoカードを1枚、10~99単元ホルダーには12枚、100単元以上は150枚といった風に大口株主ほど優待が厚くなる。大口ほど単元当たり優待が薄くなるケース(航空会社や電鉄会社)もある。株数に関係なく名義単位で優待を出す場合もある。複数単元ホルダーが名義を分けて(家族名義など)株式を所有するなど工夫したりする。

2)機関投資家には不評だ。「優待に使う費用を配当で還元してほしい」と言われたことがある。確かに投資顧問会社がお米券をもらっても困るだけだろう。金券屋に買い取ってもらい運用収益に上乗せしている。かなりの手間に違いない。外国人株主(機関投資家)に届けるのも至難の業だ。カストディーが転送してくれるとは思えないし、国内でしか使えない優待もあるだろう。自社製品以外の優待は日本特有のようで、優待として理解されるかどうか怪しい(自社製品であればIR活動として提供されたと理解すると思う)。外国人株主の持分比率が高い場合の優待は悩ましい。

3)保有期間の条件がある優待。たとえば1年以上の期間、株主でないと対象にならない、あるいは長期ホルダーの優待を厚くするといったケース。配当金狙いで権利確定日に株主になる(株を買う)投資家もいるくらいなので、優待狙いを阻止する策として保有期間条件を設ける会社もある。しかし株券が電子化されて以来、株式の異動は証券保管振替機構(保振)で一元管理されている。株主としての地位を確定する必要がある場合(配当や議決権など)に限り名簿を締めて発行体に通知してくれるが、3月末と9月末の名簿に載っているからといってその間ずっと株主であった保証はない(キセル行為が可能)。今の証券代行システムは継続保有が分かるようになっているのだろうか(昔は点と点しか分からなかった。証券代行によっても異なる)。会社法上の株主提案権の行使(6ヵ月以上株主であることが条件)ならば保振が調べてくれるが、優待は商慣行にすぎず、しかも会社が独自で決めた条件について調べてくれることはない。

4)優待の費用は損金にならない。税務上は否認が一般的ではないか。当局と争うほどのテーマでもない。割引券のケースでは原価割れしなければ否認する必要はないだろう。売上値引きもしくは販促費や広告宣伝費で損金処理が可能と考える(会計トレンド的には売上値引きがベター)。優待として提供する物品・サービスが自社製品であっても、会計上は原価を交際費に振替える等の処理が妥当と思われる。法人税の加算になるのは経理部長あたりが難色を示す理由の一つだ。無配の会社が優待をしていることもある。受け取る側の株主にしてみれば投資に対する疑似的な配当リターンに映ると思う。金券屋で換金される実態もある。一方、提供する側の会社としては配当と峻別する。というか、適法性の観点から---現物配当でない、利益供与でない等---峻別するスタンスをとることができなければやらない。もし優待付与時に源泉税徴収義務が生じるとなると会社側の事務負担は大きい。割引券など使われてはじめて実現する性質の優待もあり実務に乗せるとなると引当処理が考えられるが非現実的な気がする。株主側での確定申告(要否を含めて)をリマインド(通知同封など)する運用も検討すべきかもしれない。導入時や変更時、廃止時の開示は欠かせない。株価に影響するだけのインパクトがある。

優待は株主に喜ばれてナンボだ。最も万人ウケするのはお金だが、それはできない(配当金になってしまう)。多くの会社がプリペイドカードや金券を優待に選ぶのも納得できる。しかし優待がお金に近くなればなるほど会社の「顔」も薄れてしまう。お金に「色」がないのと同じだ。せっかくの優待なのにお金だけの関係ではちょっと淋しい気もするが。

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