説明責任

南極観測隊の日々を綴った南極で心臓の音は聞こえるか(山田恭平/光文社新書)を楽しく読んだ。意外な収穫があった。地球温暖化問題について日本政府やメディアの報道に不足している説明があった。温暖化して困るのは地球や自然じゃなくて人間と言い切っている。温暖化した環境で人類の暮らしを維持するには莫大な金がかかる。少しの投資で温暖化の被害を軽く留めなければいけない。地球の歴史では暑くなったり、凍ってしまうことは日常茶飯事。氷期と間氷期を繰り返している。今は間氷期だ。恐竜時代は今より暑く二酸化炭素が多かったため植物も巨大だった。温暖化により北極の氷の融解が進んでいるが、南極はそうでもない。寒冷化を示すデータさえ観測されているという。オゾンホールにより熱が宇宙に逃げているからだ。しかし有害紫外線を吸収してくれるオゾン層が回復すると温暖化に転じる。冷える方がずっと怖い。暑くなっても冷えても困るのは人類で環境変化を食い止めようとする。そのために科学がある。単に温暖化=悪ではなく、温室効果ガス排出ゼロを目指す背景として等身大で納得感のある説明がされていた。

今年8月、米労働省がESG投資に警鐘を鳴らした(日経記事)。企業年金は労働者の退職後の金銭的保障を提供するためにあり、財政的利益に直結しない社会的目標の達成を第一とするESG投資は受託者の忠実義務違反になると。冒頭の説明に従えば少しの投資と解釈して許容できるかもしれない。

経理を英語でAccoutingという。アカウンタビリティ=説明責任の語源と言われる。「営管理」の略が経理と信越化学工業の財経トップであった金児氏の著書に書かれていた。「管理」には状況把握や制御といった役割が含まれる。財政状態を捉え、費用をコントロールするときに帳簿は欠かせない。「決算書の読み方」的なタイトルの本をよく目にするが、財務諸表や試算表、補助簿などは、コンピュータを動かすためにプログラミング言語があるように、会社を動かす(経営する)ための言語だと思う。アートな会社経営を科目・金額・摘要でこれほどシンプルに表すものは他にない。稲盛和夫の実学 経営と会計(日本経済新聞出版)や技術ベンチャー社長が書いた体あたり財務戦略 (永守重信/ジャテック・ブックス)を読むと経理業務の重要性を痛感する。また上司からエールを贈られた気がしてくる。経営状況や戦略をステークホルダーに伝えることこそ説明責任を果たすことにほかならない。伝え方が9割とか見た目が9割といったことも世の中の一面だとは思うが、本質や核心を突いた説明は多くの人の腹に落ちるものだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?