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雨を待っている
雨を待っている
雨を待っている
充満した水分
鈍いオパール色に垂れ込めた午後の空
その空の中で一番濃い色の
重力に負けそうな
あそこがついに諦めて水を地面に渡し始める瞬間を
私は今
固唾を飲んで待っている
前を歩く学生服の人が空を見上げた
あの人も待っている
あの人も待っている
今か今かと待っている
まだ灯らない丸い街灯が
水滴を受け入れる為一層丸みを帯びた
そしてついに腕に感じる小さな冷たさ
気のせいかもしれない
イヤホンから聴こえる静かなアリアの隙間からも
まだ音も聴こえない
前を歩く人がいつの間にか違う人になっている
グレーのTシャツの人
愛おしい気持ちになる
待っているからだ
雨を
グレーを穿つ雨を
きっとあの人も待っているからだ
ここからは早い
あっという間に今度は
確かな感覚が腕を貫く
目の前の地面が粒々に塗りつぶされていく
そして帽子はすぐに意味をなさなくなった
息苦しい
立ち込めた重苦しい空気は
地面の底の深いところへ落とされていく
早く
もっと早く
強く
もっと強く
私は祈りながら歩みを早める
踏み込みを強める
とうとう目の前は見えなくなった
肝心の歩みもどこへ進めればいいのやら
前屈みになった私の顔面を風に乗って叩く
叩く
酷く叩く
ヘドロの黒に覆われた私の内部まで洗う
叩いて洗う
溶ける
色んなものが溶けて
一瞬その元の姿が亡霊のように立ち現れて
ビビッドになった瞬間
水に負けていく
溶ける
地面へ流れる
何が何だか何にもわからなくなった
あの人もきっと洗われている
あの人もきっと 洗われている
友達
友達とは言えないほどの知り合い
道であっただけの人
家族
会うこともないし会っても仕方ない家族
遠い親戚
仕事の知り合い
もう二度と会わないかもしれない人
みんなきっと洗われてメチャクチャに掻き回されて
みんな待っていた
みんな待っていた
みんなこの時を待っていた!
雨を待っている
雨を待っている
きっと待っている
虚空を見上げる人たちは
地面を見つめる人たちは
きっとみんな待っている