時間がない人のためのARDSガイドライン2021アップデート

時間がない人のためのARDSガイドライン2021アップデート

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)とは、感染症や外傷などが契機となり引き起こされる、重症の急性呼吸不全のことです。日本では日本呼吸器学会、日本呼吸療法医学会、日本集中治療医学会が合同で「ARDS診療ガイドライン」を発行しています。このたび5年ぶりに改訂され、小児患者に関する章が新設されたり、成人のクリニカルクエスチョン(CQ)の数が13個から46個に増えたりと大きなアップデートがされました。

CQをゆっくり読む時間もない!という人に向け「ARDS診療ガイドライン2021」のうち、成人CQの注目すべき変更点を解説しますので、一緒に勉強していきましょう。

立ち位置が変わった治療は「ステロイド」と「気管切開」

改訂後は、副腎皮質ステロイド投与に関する推奨度が上がりました。長期死亡や感染合併症などに関し、よい影響が示唆されたことが要因です。ただし、メチルプレドニゾロン1~2mg/kgの低用量が推奨されているのであって、むしろ高用量(30mg/kg)は使用しないよう推奨されています。
ARDSは多様な疾患を契機とする症候群ですので、背景疾患によりステロイドへの感受性は異なります。強い推奨といえど、ARDSであればステロイドが著効という意味ではありません。特効薬がないのがARDS治療の難しいところです。

気管切開は人工呼吸器を開始して14日を目安に施行することが多く、早期とは48時間〜10時間での施行を指します。ARDSは長期の人工呼吸器管理を要しやすく、早く気管切開をおこなえば、人工呼吸器関連肺炎(VAP)を減少させるメリットがあるのです。VAP以外にもメタ解析の結果、短期死亡に関する益もありそうだと示されました。

画一的な早期気管切開は不用意な介入につながる可能性がありますし、患者や施設によりベストタイミングはさまざまです。ARDS患者に対する気管切開は、具体的な時期が確立され、それが強く推奨されることはこれからもないでしょう。

腹臥位療法はARDSの鍵となる治療ですが、気管切開をしないほうが腹臥位にしやすいことをふまえ、筆者は気管切開の日程を検討しています。

「ω3脂肪酸」と「早期リハビリテーション」の推奨が新登場

以前は「まずは救命」という考え方から、重症患者は無動状態にされることが多くありました。しかし集中治療後症候群を引き起こし、救命後の生活の質を悪化させてしまうことが問題です。重症患者の救命率が上がった現在は、入院初期から「救命のその先」を見据えたリハビリが常識。ガイドラインが改訂される5年間で、常識が移り変わったことがわかりますね。

エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などはω3脂肪酸と総称されます。ω3脂肪酸は肺の血管透過性や肺水腫、肺高血圧を抑制する機序をもち、ARDS患者における死亡抑制などが示唆されました。

ω3脂肪酸の免疫賦活作用、抗炎症作用は有名です。ほかにも集中治療領域では色々な栄養剤が提案されましたが、予後改善効果を確立できずにいました。ARDSに対するω3脂肪酸も確立した効果とまでは言えませんが、メタ解析の結果としてガイドラインで推奨されたというのは大きな変化です。

ただし、日本で発売されている栄養製剤ではω3脂肪酸の含有率が高いとはいえず、死亡率に影響するかは疑問が残ります。

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