感染症専門医が解説「死亡率の高い黄色ブドウ球菌菌血症のマネージメントをマスターしよう!」

黄色ブドウ球菌菌血症(Staplycococcus aureus bacteremia: SAB)は黄色ブドウ球菌(Staplyloccocus aureus)を原因とする感染症です。臨床現場で経験する頻度も多く、死亡率も高い感染症ですが自信をもって適切にマネージメントできていますか?明日からの診療に役立つように、感染症専門医がSABの適切なマネージメントをご紹介します。

黄色ブドウ球菌菌血症は死亡率が高く(15-25%)、注意すべき菌血症である

SABは、皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌による菌血症です。黄色ブドウ球菌は、グラム陽性球菌で、メチシリン感性黄色ブドウ球菌(meticillin-sensitive Staphylococcus aureus:MSSA)とメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)にわかれます。黄色ブドウ球菌の主な侵入経路は、傷ついた皮膚組織や血管カテーテルです。しかし、市中発症例では全身の診察にもかかわらず、感染源を同定できないこともあります。SABは、死亡率が15-25%と高いので注意しなければなりません [1]。

また、深部膿瘍や骨髄炎など多くの転移性感染巣を合併します。なかでも最も注意すべき合併症は、感染性心内膜炎(SABの10-20%に合併)です。転移性感染巣を合併する場合を複雑性SAB、合併しない場合を非複雑性SABと分類します。診断のゴールドスタンダードは血液培養検査になります。SABを疑う場合は、検出された病原菌が汚染菌であるかどうかを判断するため、また原因菌の検出率を高めるために血液培養を2セット以上採取しましょう。1本でも陽性ならば、汚染ではなく真の菌血症として判断し治療します。特に、感染性心内膜炎を疑う場合は、陽性となる可能性をあげるため、3セットの採取が推奨されています [2]。

髄膜炎を合併した時は、中枢神経移行性のよい抗菌薬を使用する

具体的な症例から抗菌薬選択を考えます。

(症例)

  • 70歳男性

  • 基礎疾患に糖尿病と高血圧

  • MSSAによる感染性心内膜炎に対してセファゾリン(セファゾリンⓇ)治療中に、MSSAによると考えられる脳梗塞を合併

MSSAによるSABの第一選択薬の抗菌薬はセファゾリンになります。上記に提示した患者は、MSSAによる感染性心内膜炎に脳梗塞を合併しました。SABは全身の至るところに転移性感染巣を合併するので、症例のように中枢神経系感染症もしばしば合併します。

中枢神経系感染症を合併した場合、処方する薬はこのままセファゾリンでも大丈夫でしょうか?それとも他の抗菌薬に変更した方がいいでしょうか?セファゾリンは中枢神経移行性が悪い抗菌薬なので変更しなければなりません。中枢神経系感染症を合併した場合は、移行性のよいセフトリアキソン(セフトリアキソンⓇ)、セフェピム(セフェピムⓇ)、メロペネム(メロペネムⓇ)などに変更しましょう [2]。状態が不安定であればメロペネムに、状態が比較的安定していればセフトリアキソンやセフェピムに変更します。

腎機能障害があれば腎機能調整が不要なセフトリアキソンを使用します。なお、海外では中枢神経移行性がよいペニシリン系抗菌薬のオキサシリンやクロキサシリンでMSSAによる感染性心内膜炎の治療をおこなうので、変更する必要がありません。日本では、オキサシリンやクロキサシリンが承認されていないため、中枢神経感染症を合併した場合は、セファゾリンから他の抗菌薬に変更する必要があります。

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