治らない“肺炎”? -粘液産生性浸潤性肺腺癌-

粘液産生性浸潤性肺腺癌(invasive mucinous adenocarcinoma:IMA)という疾患をご存じですか?IMAは細菌性肺炎に類似した画像を呈する肺癌の一種で、経気道的な転移を起こしやすく、予後不良な疾患です。また、2022年1月に初の治療薬が登場し、話題となっているKRAS遺伝子を有する頻度が高いことも特徴のひとつです。

本記事では今後さらに注目度が高まる肺癌、IMAについて解説します。

細菌性肺炎と類似するIMAの画像所見

IMAは、以前より呼吸器科界隈では細菌性肺炎のmimic(紛らわしい・誤診しやすい)な疾患として有名でした。IMAは、肺癌に典型的な肺内腫瘤を形成する頻度が低く、浸潤影を主体とした画像所見を呈することが特徴です。

腫瘍細胞が粘液産生に富む性質を持ち「粘液産生性」という名前の通り、多量の粘液が病勢進行にともなって産生されます。増加した粘液は、腫瘍細胞とともに他の部位へ流れ込み、経気道的に転移が成立し浸潤影が拡大します。この画像所見が、肺胞内の炎症が気道に沿って広がっていく細菌性肺炎の画像所見と類似することが、IMAがmimicな疾患と呼ばれる理由です。

IMAは、以前の肺癌WHO分類では、mucinous bronchioloalveolar carcinoma(mucinous BAC)と呼ばれており、この疾患名で記憶されている方もいるかもしれません。mucinous BACは、2015年の分類改訂の際にIMAとして肺腺癌の亜型に分類されることになりました。

IMAは、肺腺癌のなかで約5%と頻度は低いながら、予後不良な疾患です[1]。経気道的な転移を起こしやすいため進行が早く、薬物療法への反応性が不良であることも報告されています。一般的な肺癌と比較して診断が容易ではない点も、予後を悪化させる一因かもしれません。

診断のキーワードとピットフォール

IMAにおける典型的な臨床経過は以下のような経過です。

  • 上気道症状を呈し画像検査で浸潤影を認めたことから感染性肺炎と診断し、広域抗菌薬で治療を開始する

  • 喀痰培養からは有意な菌が検出されず、治療開始から十分な期間が経過しても自覚症状と画像所見が改善しない

このような「抗菌薬で改善しない“肺炎”」に遭遇した場合は、IMAを想起する必要があります。また、喀痰の量が非常に多いこともIMAの特徴で「痰の量が多くて溺れそうになる」と表現する患者がいるほどです。

診断のピットフォールとして、以下の2点があげられます。

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