10分でざっくり分かる呼吸ECMO(エクモ)

新型コロナウイルス感染症の流行を契機に、重症呼吸不全の診療に利用される体外式膜型人工肺 (extra-corporeal membrane oxygenation:ECMO)、通称エクモという名前をよく耳にするようになりました。救急医や集中治療医が呼吸ECMO診療をおこなうことが多いですが、ECMOに関する理解は広く求められていることでしょう。2022年の内科専門医試験においてもECMOに関する出題があったほどです。

今回は呼吸ECMOの基本や適応、ECMO患者に特有の呼吸管理について、集中治療医が非専門医向けに解説します。

ECMOは「治す」治療ではなく「待つ」治療

呼吸ECMOは、静脈からポンプで血液を吸い出し、人工肺で酸素化・ガス交換をおこなって、静脈に返すというシステムです。

たとえば、大腿静脈から脱血し、内頸静脈に送血をします。用いられるカテーテルは太く、脱血カテーテルは24Fr(約8mm)、送血カテーテル16Fr(約5mm)などが選ばれることが多いです。送脱血に利用される血管やカテーテルは、状況や施設によって異なります。

ECMOには肺障害を治す機能はなく、治癒していくまで、肺を休ませて待つことが目的です。このコンセプトは”Lung rest”と呼ばれます。呼吸状態が悪い患者の人工呼吸器は通常、換気のために高圧をかけ、高濃度酸素を投与することが多いです。いずれも肺を損傷することがわかっており、人工呼吸器関連肺障害(VALI:ventilator-associated lung injury)といいます。ECMOにガス交換を任せると、人工呼吸器の設定を弱めてVALIを軽減できるのです。

ECMOを開始すると、患者の呼吸様式はかなり落ち着きます。努力呼吸もまた肺を障害するため、ECMO導入は患者自身が引き起こした努力呼吸による肺障害も軽減するのです。

呼吸ECMOの適応は推定死亡率80%以上の患者

Extracorporeal Life Support Organization(ELSO)が示した導入基準によれば、呼吸ECMOの代表的な適応は以下の通りです[1,2]。

  • 適応基準:死亡率が80%以上と考えられる場合

  • 考慮基準:死亡率が50%以上と考えられる場合

推定死亡率は、必要とする人工呼吸器の設定やMurray scoreなどを参考に検討します[1,2]。

ECMOは非常に侵襲度の高い治療です。導入時に太いカニューレが心臓を損傷する可能性がありますし、管理中に大量輸血が必要になることも少なくありません。患者にとって精神的負担の多い治療でもあります。

よって、念のため導入するという選択がないのがECMOです。予測される死亡率が高く、その他の手段がない場合に導入します。逆に、死亡率100%で不可逆的と分かっている病態への導入は慎まれるべきです。

極論!呼吸ECMOの管理中はSpO2<80%でも大丈夫

見出しを見て驚いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。呼吸ECMOを装着している場合は、SpO2の正常化にこだわらず、生理学的な評価の下で呼吸管理をおこないます。

呼吸管理の目標は「酸素供給量と酸素消費量のバランスを保つ」ことです。健康成人において、酸素供給量は消費量の5倍とされています。2倍を下回ると嫌気代謝がはじまり、代謝性アシドーシスに陥るのです。ELSOのガイドラインでは、酸素供給量の目標は消費量の3倍と示されています[1,2]。

  • 健康成人:酸素供給量/酸素消費量>5

  • 危険水準:酸素供給量/酸素消費量<2

  • 目標:酸素供給量/酸素消費量≒3

要するに、きちんと酸素供給を保ちましょうという戦略です。では、十分な酸素供給量はどのようにもたらされるのでしょうか。以下の式をご覧ください。

「うわっ難しそう」と思った方、まだ画面を閉じないでください。この式から以下の3ポイントを読み取れれば大丈夫です。

  1. 酸素飽和度の影響は意外と小さい

  2. PaO2の係数はとても小さい(0.0031)

  3. ヘモグロビンや心拍出量の影響が意外と大きい

どんなに酸素投与量を上昇させても、酸素飽和度の上限は1.0です。逆に、たとえ0.8まで低下してしまっても、全体へのインパクトは思ったよりも小さいことがわかります。同様にPaO2の係数も非常に小さいのです。逆に、心拍出量やへモグロビンの酸素供給量に大きく影響し、輸血や循環管理にこだわる必要があります。

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