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[読書ログ]タイトルに「きつね」が入っている絵本part2

引き続き、きつねが出てくる児童書、絵本を読んだ読書ログを。
選んだ本が、児童書程度の文量がある本が多いので、今日からは1日1冊にする。


きつねのでんわボックス

作:戸田和代
絵:たかすかずみ 
※本記事は盛大にネタバレ含みます。

あらすじ

夫のきつねを亡くしたきつねは子どもきつねと二匹で楽しく暮らしていたが、ある日子きつねが病気でしんでしまう。
ひとりになった母きつねは、ある時、山の麓で電話ボックスをみつける。
電話ボックスの中で、男の子がお母さんに電話をしている。
母きつねは、男の子を自分の子どもと重ね合わせて、毎日見守っていると、ある日、電話ボックスの灯りがつかなくなり、撤去されることを知る。

男の子が電話できないと会えないと思った母きつねが、電話ボックスに変身して、男の子が変身した電話ボックスでお母さんに電話をする。
もうすぐ引っ越しして入院中のお母さんと毎日会えるから、もう電話ボックスは使わなくなる、ということを聞いた母きつねはショックを受ける。

最終的に、母きつねが電話を耳にあててみる。声は聞こえないが、胸の中にいつもいっしょにいるから平気だと立ち直るエンド。


感想

第8回ひろすけ童話賞受賞作品とのことで納得。
絵の可愛らしさ、やわらかさと話の内容がマッチしていて情感たっぷり。

内容的に小学校1~2年生だと、「死」や母が子を想う気持ちへの共感がむずかしく、テーマと対象年齢が不釣り合いの印象はある。

ただ、こういう本があると、書き手としては心強い。こういうのも書いていいし、こういうのも評価されるのが児童文学の幅広さなのだと思える。

切なさと、悲哀と、愛情のやさしさ。

……良い……っ!!

冒頭は、電話ボックスの説明から始まる。初版は1996年だからまだ電話ボックスがあった時代だと思うが、今の子どもにはなかなか理解しがたいかもしれない。

自分が読んだ本を、子ども、孫、ひ孫、というように受け継げるものが良本と思っているが、その観点で言うと、こういう時代の影響を受けるものを使うのは、なかなか難しいと感じた。

難しいことばかりではなく、よかったところもたくさんある。
場景描写がうまい。

けれども、なつがすぎ、ひんやりとあきの空気がただよいはじめると、こぎつねのようすが、すこしかわりました。
なんだか、いつもの元気がなくなってきたのです。
つぎのあさ、きつねは、草のつゆをふみながら、いそいで山からおりていきました。
(じゃあね、また、あしたね)
耳の中に、まだ、あの男の子のこえがのこっています。
やがて、空のいろがききょうの花より、すこしこいいろになると、また、ぽっとでんわボックスに、あかりがつきました。

季節と天気の移り変わりがさらっと表現されていて、場面の移り変わりが分かりやすい。

また、胸がきゅうっと切なくなる描写もよかった。

きつねが化けた電話ボックスで男の子が電話をするシーン。きつねが男の子の母親になりきって答えている。

「あのね、きょう、おじいちゃんがね……」
『はいはい、わかった、大きな町のえきにいったんでしょう』
きつねは、いそいでいいました。
「ううん、ちがうよ」
『わかった、カレーライスたべたのね』
「ちがうったら」
『じゃあ、アイスクリーム? それもいいけど、かあさん、木のみのおだんご、ぼうやといっしょにたべたいなあ』
きつねは、うれしくなって、ついちょうしにのると、
「なにいってんの、かあさん」
男の子は、くすくすわらいだしました。

引用で文字を打っているだけで切ない。泣きそう。

調子に乗っているきつねと、男の子の冷静さの対比もいい。


気になったところは、このあとおじいちゃんと二人で暮らしていることが分かったが、おじいちゃんの家に電話がないのか?ということ。

ふつう田舎なら尚更電話はあると思うが、そのことについては書かれていない。

小学低学年くらいの子どもが夕暮れ時に電話ボックスを一人で使いに来るか?ということ。毎回おじいちゃんといっしょならわかる。まあ田舎ならあるかもしれないけれど、ちょっと気になった。


あとは、ポジティブな気になる点。
きつねのことを調べまくったせいで、きつねがいつ出産シーズンなのか、人間換算での年齢や、巣立ちの時期を照らし合わせたとき、違和感がないように作られていることに気づいた。
これはおそらく作者も調べて設定されたのだろう。

母きつねが男の子を見たとき、

「まあ、かわいい。わたしのぼうやも、にんげんだったら、このくらいかしら……」

と、言う。
きつねは生後3か月で5歳、生後半年で9歳程度で、生後半年になったら巣立ちの時で、お母さんは必死に子どもを追い払って独り立ちさせる。

そうすると、男の子はおそらく5~9歳の間?くらいなので、子ぎつねは生後3か月~半年の5~9歳程度の年齢だったと推測できる。

そうすると、「夏がすぎ、ひんやりとあきの空気がただよいはじめる」頃に子ぎつねが体調悪くしているので、出産シーズンの4月頃に生まれ、ちょうど半年になる秋ごろ、そろそろ独り立ちするというタイミングで亡くなったことになる。まだ母親からの深い愛情を受けている時期だ。

こういうことをいちいち調べて考えて、メルヘンをリアルにするためにリアルを徹底的に勉強せよ、という教えをもらって勉強しはじめたわけだが、なんというか、、、こういうことを気にしながら本を読むようになると面白みが薄れる気がしないでもない。。

電話ボックスに化けるところからきつねを登場させているのは納得。生活圏の中での出来事(山の麓)というのもきつねに意味を持たせていていい。


きつねに関して、勉強になった作品だった。


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