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[読書ログ]「ひみつの相関図ノート」

『ひみつの相関図ノート』
作/望月麻衣、如月かずさ、神戸遥真、もえぎ桃、宮下恵茉、地図十行路、松素めぐり、にかいどう青
編/日本児童文芸家協会
絵/hagi
   

読んだので感想を。
人間関係をテーマにした8つのショートストーリー集で、各物語の表紙に「表の」相関図が載っており、物語を読み進めると、「裏の」相関図がわかるというつくり。


枚数制限のなかでテーマに沿った表現方法とアプローチのちがいによるバリエーションが、アンソロジーのおもしろみだと思う。

このおもしろさは、企画展と似ている気がする。あるテーマのもと、集められた作品たちは、当たり前だが、それぞれ表現方法や、アプローチの仕方がちがう。絵画の場合もあれば、彫刻の場合もある。けれど、どれもが共通したテーマを備えている。
  
本書は、「1話10分で絶対ハッピーエンド×大どんでん返し!」という触れ込みだ。これだけでもだいぶ制約があるが、その前提に相関図の設定もある。
しかも、1話10分で読めるというボリューム感なので、それこそ鍵穴から覗いた景色くらいの情報量しか詰め込めないはず……
なのだが、どの作品もそれぞれちがったアプローチをしている。そこがおもしろい。
  
個人的に好きだったのは、『放課後のメッセージ』。中盤、橋元と綾瀬のやりとりを経て判明する事実への橋元の反応に違和感があったけれど、ふたりの関係性と、仲良くなっていくなかでのやりとり、そして最後の一文。最高。続きが読みたくなる作品だった。

また、強烈なインパクトを残したのは、『それでも地獄で息をする』。
タイトルの強さ。ほかの作品たちと毛色がちがう。しかも、表の相関図の関係は「契約いじめの関係」。

ただ、読んでみると、文章や内容にナイフのような鋭利さはなく、すらすらと読める。また、重たくなりそうな内容だが、リンゴの存在がコミカルさを生み、淡々とした語り口も相まって、タイトルとの温度差にちょっと風邪をひきそうになった。(賞賛の意味です)
後半、野宮くんの感情の揺れ動きがとてもよかった。特に最後の一ページの心のうちの表現がいい。好き。

この作品集のなかに、もし自分の人生のひとコマが物語として収録されるとしたら……自分とだれかの関係性の表と裏ってどんなだろう。そんなことを考えながら読むと、また、ちがったおもしろさにも出会える。

王道さわやか恋愛もの、友情や憧れの人との関係性、続きの気になる神秘的なSFもの、甘酸っぱい青春ストーリーなど、ジャンルも多種多様。
”絶対ハッピーエンド”と名付けられた企画展で展示された作品を鑑賞するような、そんな作品集だった。
ただし、これは一冊の本のなか。人混みも、閉館時間も気にせず、ひとつひとつ、時にはページをさかのぼって、のんびりと鑑賞できる。

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