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[読書ログ]「クリスマスのまえのばん」

作: クレメント・C・ムーア
絵: ウィリアム・W・デンスロウ
訳: 渡辺 茂男
出版社: 福音館書店


あらすじ

クリスマスの前の晩、ひっそりと静まりかえった家の中は何ひとつ動きません。
子供たちはベッドの中ですやすやと眠り、砂糖菓子の夢を見ています。
母さんも、父さんも冬の夜の眠りについたところです。
……その時です、とてもにぎやかな音が外から聞こえてきました。
父さんはベッドから跳ね起き、窓辺にさっと駆け寄りました……。

絵本ナビHPより


感想

この時期にぴったりのおはなし。
この「クリスマスのまえのばん」は、あちこちの出版社から出ているけれど、福音館書店の本がいちばん気に入った。

絵がウィリアム・W・デンスロウ。
「オズの魔法使い」で挿絵で有名な巨匠だ。
愉快で、軽快なおじさんとして、セントニコラス、のちにサンタクロースと呼ばれる人物を描いている。
この楽しそうな心弾む絵が、物語にぴったりとはまっている。

そして、翻訳は「エルマーのぼうけん」の翻訳者でもある渡辺茂男。もうここまでくれば、間違いない。

作者のクレメント・C・ムーアは学者であり、子どもたちのために作った詩が今日まで語り継がれ、このように絵本になったという。

まえがきには、以下のように書かれている。

むかし、ニューヨークの町に、畑や果樹園にかこまれた古い灰色の館がありました。そこに学者のクレメント・C・ムーアが住んでいました。
1822年のクリスマス前夜のこと、ムーア先生は、子どもたちを喜ばせようと『セントニコラスの訪れ』と題する、たのしい物語詩を書きました。
後にサンタクロースとよばれるようになったセントニコラスがクリスマス前夜にやってくるお話です。

本文まえがきより一部引用


物語は、セントニコラスがトナカイを引き連れて、家にやってきて、プレゼントを置いて去っていく、というシンプルなストーリー。
 
家にやってくるセントニコラスをお父さんが見つける。
ここに子供たちの描写はない。
お父さんが見つけて、お父さんが驚いたり、わくわくしたりする。
この構図だから、読み聞かせにはもってこいだと思う。
子どもから、「お父さんがサンタに会ったらどうする?」とか、会話が弾みやすいからだ。
 
子どもは、絵本という窓からそれをじっと眺めている。
あくまで絵本のなかのこどもたちも、寝ているあいだに起きている魔法のようなことなのだ。
このファンタジックな雰囲気が、読んでいる側をよりわくわくさせる。

そして、セントニコラスの絵がまた、たまらない。
 
 
セントニコラスは物語の中で、ほとんどしゃべらない。
絵本の大半が描写であり、説明文だ。

りょうめの なんと くりくり していること!
えくぼの なんと たのしそうなこと!
ほおは バラのよう
はなは サクランボそっくり!
おどけた ちいさな くちを 
きゅっと しめ 
あごひげは 
ゆきのように まっしろ。
 
パイプを しっかり くわえ
のぼる けむりが あたまの まわりで
はなかんんむりのように ゆらいでいます。
 
ちいさい からだに おおきな かおで
かわいい おなかを しています。
わらうたびに まるい おなかは
ボウルに いれた
ゼリーのように ふるえます。 

本文より引用


ここまで丁寧な説明が続くのは、セントニコラスという謎めいた人物像があるためだろうが、たのしい説明が続いていくので、想像力を掻き立てられる。

お父さんとセントニコラスという接点のみ、しかも会話文もないにもかかわらず、ここまでアメリカ古典として広くひろまり、絵本で楽しまれているということは、どういうことだろう。

人々のサンタクロースへの興味関心に下支えされたことは言うまでもないが、それに加えて、クレメント・C・ムーアのセントニコラスの描写や、説明文が面白く、魅力的な証拠だと思う。
描写と説明文だけで面白い絵本って、本当に稀な部類ではないだろうか。

だが、文章だけではここまで日本でも広まらなかっただろう。
ムーアの描写を何倍にも膨らます、デンスロウの画力が凄まじいからこそ、これだけ楽しい絵本になっている。

友人の子どもにあげたい本。

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