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坪内隆彦「日本弱体化法『財政法第四条』を改正せよ」(巻頭言)(『維新と興亜』第15号、令和4年10月28日発売)

 岸田政権が防衛費を「五年間で倍増」という方針を示す中で、財務省が露骨な抵抗姿勢を見せている。四月二十日に開催された財政制度等審議会の歳出改革部会で財務省が配布した資料「防衛」には、「防衛力は、国民生活・経済・金融などの安定が必須であり、財政の在り方も重要な要素」と書かれている。防衛費増額に対する強烈な牽制だ。
 さらに、この資料には国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の三文書の見直しについて、〈複数年度にわたる防衛関係予算の編成の目途となること、他の経費の増減を抜きにして、防衛関係予算の多寡を議論できないことから、我が国財政(予算)全体への影響も非常に大きい。それゆえ、国民の「合意」と「納得」を得られるよう、議論を進めければならない」と書かれている。
 いま防衛費増額に対する国民の意識は、大きく変化している。十月上旬にNHKが実施した世論調査では、国民の五五%が防衛費増額に賛成しており、反対は二九%にとどまった。防衛費を増額する絶好の機会なのである。しかし、防衛費増額はアメリカの要請に応えるためでも、アメリカ製の高額兵器購入を拡大するためでもなく、自主防衛に必要な措置を講じるためにこそ必要なのだ。防衛三文書の見直しにおいても、自主防衛の視点が欠かせないはずだ。
 その上で、防衛費増額のためにどう財源を確保するかが問題となる。安倍元総理は、財源について「道路や橋を造る予算には建設国債が認められている。防衛予算は消耗費と言われているが、間違いだ。まさに次の世代に祖国を残す予算だ」と言及し、国債を活用すべきだと主張していた。
 安倍元総理の発言にある通り、後の世代に残る道路や港湾などの社会資本整備に充てられる「建設国債」だけが例外的に認められているが、財政法第四条第一項は「国の歳出は原則として国債又は借入金以外の歳入をもって賄うこと」と規定し、赤字国債の発行を禁じている。安倍元総理は、防衛費は施設や装備が次世代に残るため、建設国債と同じく恒常的な国債を使えるようにすべきだと提案したのである。
 これに対して財務省は、日本が抱える巨額の国債残高などが「有事の際に脆弱性につながる」と主張し、国債発行を阻止しようとしている。九月二十六日には鈴木俊一財務相が、「赤字国債に依存すれば有事の際に経済を不安定化させる」と語っている。
 財務省は、防衛費を増額しようとすれば増税が必要との立場をとっているが、増税論が表に出てくれば、防衛費増額に賛成している国民世論も揺らぎかねない。
 遡れば、財務省(大蔵省)は、戦後長らく「軽武装」「経済重視」の吉田ドクトリンを維持すべく、財政規律を理由に、防衛費増額に歯止めをかける役割を演じてきたのではなかろうか。その際、財務省の強力なカードとなっていたのが、財政法第四条だったように見える。
 財政法制定当時の主計局法規課長を務めていた平井平治は、「戦争危険の防止については、戦争と公債がいかに密接不離の関係にあるかは、各国の歴史をひもとくまでもなく、わが国の歴史をみても公債なくして戦争の計画遂行の不可能であったことを考察すれば明らかである、……公債のないところに戦争はないと断言しうるのである、従って、本条(財政法第四条)はまた憲法の戦争放棄の規定を裏書き保証せんとするものであるともいいうる」と書いている。まさに、財政法第四条は戦争をさせないための法律なのだ。
 西田昌司参院議員は、財政法に関して「GHQが二度と戦争をさせないように、財政の自由度に制限を加えた。日本を弱体化させるための法律だった」と主張している。
 いまこそ、防衛国債による防衛費増額を実現するとともに、占領体制の遺物である財政法第四条を改正すべきである。

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